「5倍から17倍へ」広がるAI半導体の断層

 米国が関税の即時発動を見送ったもう一つの要因として、中国の国産AI半導体の進展が予想以上に停滞しているという分析がある。

 米シンクタンクの外交問題評議会(CFR)がまとめた最新の報告書によると、米NVIDIAの最先端品と中国・華為技術(ファーウェイ)の製品との性能差は、現在ですら約5倍に達している。

 この格差は縮まるどころか、2027年には17倍にまで拡大すると予測されている。

 中国の半導体受託生産大手、中芯国際集成電路製造(SMIC)は現在、回路線幅7ナノ(ナノは10億分の1)メートルの壁に直面している。米国主導の製造装置輸出規制によって、その先の微細化が行き詰まっているためだ。

 ファーウェイが昨年末に公表したロードマップでは、次世代チップの性能が現行品を下回るという「逆転現象」すら示唆されている。

 英フィナンシャル・タイムズ(FT)は、この実態を報じている。米当局内では「中国の追い上げは輸出管理によって十分に抑制できている」との自信が、関税導入を急がない心理的余裕を生んでいる。

「H200」解禁と「25%手数料」の波紋

 一方で、ビジネス現場ではより現実的な「取引」が進んでいる。

 トランプ政権が容認したエヌビディアのH200の対中輸出には、売上高の25%を米政府に納付するという異例の条件が付された。

 トランプ氏は「Blackwell(ブラックウェル)」等の次世代機との性能差を強調し、この取引が米国の優位性を損なわないことを正当化している。

 加えて、新たな規則では、中国への出荷量を米国内供給の5割以下にとどめることや、第三者機関による性能テストを義務付けるといった制約を設けている。

 これに対し、マット・ポッティンジャー氏ら元高官は、この決定が中国の軍事近代化を加速させる「誤った道」であると強く非難している。

 この政策は、中国企業を米国主導の技術圏(エコシステム)に依存させ、国産化のスピードを削ぐことを狙っている。同時に、米国側に莫大な財源をもたらすという「二兎」を追うものである。

 しかしハワード・ラトニック米商務長官は、台湾の供給網の40%を米国内に移転させ、半導体の「完全な自給自足」を達成する方針を掲げており、H200の輸出容認もその巨大な戦略的転換の一環に過ぎない。

 これに対し、中国側は安全保障上の懸念から対抗策を講じている。具体的には、H200の導入企業に対して、一定比率で国産チップの購入を義務付ける「抱き合わせ(バンドリング)」案などが浮上した。

 さらに中国政府は1月、国内企業に対し、大学の研究など特殊な事情を除きH200の購入を制限する指針を示した。

 英ロイター通信によれば、中国の税関当局はすでにH200の輸入を許可しないよう通達を出しており、事実上の禁輸状態にあるとの見方も浮上している。

 中国のAI新興、深度求索(ディープシーク)などは、国内の演算資源不足を背景に、限られたH200の確保に奔走している。

 しかし、一部の中国テック大手は25%もの上乗せコストや将来の政治的リスクを重く見ている。国産チップへの切り替えを模索し続けるなど、米国への依存と技術的自立の間で揺れ動いているのが現状だ。