白物家電事業の売却を検討している日立製作所(写真:日刊工業新聞/共同通信イメージズ)

業界内では「必然」と受け止められる日立の白物売却の検討

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 日立製作所が白物家電事業の売却を考えていると、8月5日付の日本経済新聞が報じている。記事によれば韓国のサムスン電子などが関心を持っており、売却金額は1000億円~数千億円規模になるという。

 日立の白物家電事業の売上高は3673億円(前3月期)、調整後EBITDA(税引き前利益に減価償却費などを加えた利益指標)は392億円と売上比は10%を超えているのだから、決して不振事業ではない。それでも事業売却の検討は、業界内では「ある意味、必然」と受け止められている。

日立GLSが手がける主な家電製品(図:共同通信社)

 日立の過去20年は事業変革の歴史だった。きっかけは2009年3月期に計上した7873億円の最終赤字だ。

 当時の製造業としては過去最大の赤字だった。前年のリーマンショックの影響が大きかったが、それ以上に日立が長年抱えていた構造的な問題が顕在化した結果であった。かつて「総合電機メーカー」として広範な事業領域を誇っていた日立は、その多角化戦略が裏目に出て、収益力を欠いた複数の事業が経営の足かせとなっていた。

 そこで選択したのが「本業回帰」と「子会社売却」の徹底だった。日立はかつて日本一の子会社を持っており、上場子会社だけでも22社あった。しかしその後、周辺事業の子会社を中心にどんどん切り離していく。さらには上場企業も売却するか本体に取り込んだ結果、今では上場子会社はゼロとなった。

 その代わり、発電を含む社会インフラにITを組み込んだ事業にすべてを集中させていく。その集大成とも言えるのが、「Lumada(ルマーダ)」と呼ばれるデジタルソリューション・プラットフォームで、さまざまな産業分野の顧客が抱える課題を、IoT、AIなどのデジタル技術を活用して解決する。今では日立の売り上げの3割はルマーダで占められる。

 こうした日立の事業変革の流れを考えれば、白物家電の売却検討はむしろ当然ともいえる。

 日立にとって、モーター事業は創業以来の中核事業だ。性能にも定評があり、そのためモーターを使う家電である冷蔵庫、洗濯機、エアコンなどは、日本国内ではいずれもトップ3もしくはそれに近いシェアを誇っているが、本業である社会インフラとの親和性は低い。

 しかも国内では高いシェアを保っていても、世界シェアにおける存在感はない。そうであるならば、売却という判断に傾くのも無理はない。

 だが、仮に日立が白物家電事業を売却するとしたら、日本企業の家電部門がまた一つなくなることになる。