トランプはなぜエプスタイン資料を公開しないのか、と報じる記事を映し出したニューヨーク・タイムズスクエアの掲示板(7月23日、写真:ロイター/アフロ)
前回「選挙後に発揮されるアストロターフィングの真骨頂、昨日の支持者はもう要らない」でお伝えした、「エプスタイン」性的人身売買疑惑にドナルド・トランプ米大統領の関与が疑われている問題。
(アストロターフィングについては以下の記事を参照:「ネット選挙を大きく左右するAI駆動のアストロターフィングとは何か」)
トランプ氏からジェフリー・エプスタイン氏への手紙の存在を報じたウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)を米大統領自ら、1.5兆円規模の損害賠償を求める「名誉棄損訴訟」に訴えるとしたものですが、WSJ側は全く筆鋒の鋭さが鈍っていません。
7月23日には、パム・ボンディ司法長官が「エプスタイン元被告に関連する資料がトラック1台分あると述べた」と報じています。
また、「今年に入り関連資料を調べた際、その中にトランプ大統領の名前が複数回登場していたことなどを政府高官らが明らかにした」と続報。
具体的には今年5月、ボンディ司法長官はホワイトハウスでトランプ氏に、エプスタイン文書の中にトランプ氏の名が複数個所に含まれ、また他の米国著名人の名前も多数記載されていることを報告したとのこと。
米国で熱を帯びてきたエプスタイン関連の報道に、トランプ氏の属する共和党はあれこれやり取りがあること自体、ボロが出るだけで不利と判断したのでしょうか。
7月22日時点でマイク・ジョンソン下院議長は、「民主党の政治ゲームへの参加を拒否する」と重要法案の審議を諦め、会期を前倒しで終了して約5週間の夏季休会に入ることを決めました。
ほとぼりが冷める9月に本筋の審議を再開する目論見でしょう。
本来なら「移民関連」など主要法案を夏季休暇以前に本会議採決に向けて委員会の開催を予定していたものが、見送られる方針となった。
エプスタイン問題が政治日程に影響を与え、「空白」を作った形になっています。
共和党分裂、離反する極右MAGA議員
米下院の動向で注目すべきなのは、7月22日、エプスタイン事件の共犯として有罪判決を受けた元交際相手で禁錮20年の有罪判決を受け現在収監中のギレーヌ・マクスウェル受刑者の召喚を求める動議を全会一致で承認したことでしょう。
この動議は共和党保守強硬派、かつ時折UFOがらみなど微妙な案件でも名前の挙がるティム・バーチェット下院議員から提出されたもので、トランプ氏お得意の「民主党の陰謀」ではありません。
民主党議員が賛成するのはもちろんのこと、元来はトランプ氏を支援していたMAGA(Make America Great Again=米国を再び偉大に)派の代表格、マージョリー・テイラー・グリーン下院議員など、トランプ選対の強力な指導者たちが「下院全会一致」で「マクスウェル召喚」に賛成しているわけです。
有権者相手なら「もう彼らのサポートは要らない」と言えるトランプ氏も、さすがに上下院議員のMAGAリーダーをなで斬りにはできず、政権の基盤にひび割れが生じ始めている可能性が指摘できるでしょう。
ちなみにこのグリーン下院議員は「陰謀論者」として著名です。
2016年には、ヒラリー・クリントン民主党大統領候補選対の「ピザゲート陰謀説」、「同時多発テロ米国陰謀説」など、すでに当局の捜査によって反証済の疑惑を一貫して支持。
陰謀論を中心とした極右による政治活動「Qアノン」 サポーターで、2021年のジョー・バイデン大統領就任前後には「民主党議員に暴力的な攻撃をかけよ」と煽動した容疑で全役職の剥奪、辞職勧告を決議された経験のある「烈女」として知られています。
これまで狂信的トランプ支持者だったグリーン氏までが、トランプ氏によるエプスタイン疑惑の幕引きに疑義を呈している。