トヨタファイナンシャルサービスの平野英治取締役=元日銀理事(国際担当)=はこのほどJBpressのインタビューに応じ、日本のメガバンクは政府による公的資金の予防的注入を検討すべきだと提言した。改正金融機能強化法に基づき、政府は12兆円に上る公的資金注入枠を用意した。しかし、大手銀行は国の経営への関与を懸念し、公的資金の活用には及び腰の姿勢を続けている。

 米国の不良債権処理について、平野氏は「道半ばまで来ているとは思えない。峠を越したとは言えない」との認識を表明。また、欧州に関しても「情報開示が遅れている部分もあり、不気味な火種が残っていると言われれば、そうかなと思う。どういう問題を抱え、どんな政策対応で乗り切ろうとしているのか、大きな注目点だ」と指摘した。

 その上で、平野氏は邦銀を取り巻く経営環境について「まだ何が起こるか分からず、日本がどういう状況で巻き込まれるかも分からない」と強調。その上で、「公的資金を注入すべきか否かと問われれば、私は(メガバンクも)資本は厚く持つべきだと思う。少なくとも、資本制約によって『カネを貸せない』という状況は回避すべきだ」と訴えている。(取材協力=JBpress副編集長・貝田尚重、撮影=前田せいめい)

 JBpress 世界金融危機の下、日本の政策対応をどう評価するか。

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平野 英治氏(ひらの・えいじ)
1973年一橋大経卒、日銀入行 78年ハーバード大大学院修士号取得 93年営業局金融課長 95年岡山支店長 99年国際局長 2002年理事(国際担当) 06年日銀退任、トヨタファイナンシャルサービス取締役(エグゼクティブバイスプレジデント)

 平野氏 初動は鈍かった。だが昨年末以降、政府・日銀ともにプラクティカルに策を打っている印象がある。日銀が非伝統的な手段を使い、本来であれば政府が財政的措置で対応すべきエリアまで踏み込んだのは、今の事態を正確にかつ深刻に受け止めている証左だろう。個別の批判はあろうが、政府も大きな財政パッケージを組んでおり、過去に比べて非常に迅速な動きだ。

 ――「失われた10年」を経験した日本の果たすべき役割は。

 平野氏 日本の経験は色々なレベルで伝えているし、諸外国も相当に研究している。日本は相対的に金融システムが安定し、リスク管理もしっかりしている。本来ならば、新しい金融秩序づくりの中で、最も中立的にモノを言える立場にある。しかし残念ながら、日本は能力不足。英語で戦うことができないし、国際的な基準設定に関与していく蓄積・経験もない。政治力も足らない。二度と来ないかもしれない(世界をリードできる)好機を逃していることは残念だ。

 ――日本のメガバンクに対し、予防的な資本注入が必要ではないか。

 平野氏 金融危機の全容が見えているわけではない。、まだ何が起こるか、日本がどういう状況で巻き込まれるかも分からない。少なくとも、資本制約によって金融機関が「カネを貸せない」という状況は回避すべきだ。

 申請するかどうかは銀行の自由だが、「公的資金を注入すべきか否か」と問われれば、私は(メガバンクも)資本を厚く持つべきだと思う。

 国として金融機関の資本基盤を厚くし、貸し出し余力をつけることは重要な政策だ。経営に制約をつけず、資本注入することも検討すべきだろう。