公私にわたって、「断ること」はとても難しい。外資系コンサルティング企業で “究極の優等生” と言われた著者は、長時間労働を黙々とこなし、人間関係に悩んで十二指腸潰瘍やメニエールを患った。

30代で断ることの重要性に気づき転身果たす

 30代前半で「自分で断ること、捨てること」の重要性に気づき、生き方を見直して、証券アナリスト、経済評論家への転身を果たしていったという。

断る力』勝間和代著、文春新書、900円(税別)

 現在は、経済評論家、公認会計士の本業に加え、家事、子育て、大学院での研究、本の執筆、講演、対談、チャリティー活動、ブログの更新、テレビ出演などをこなすが、ワーク・ライフ・バランスはちゃんと保たれて、時間に余裕がある。

 その秘訣は、とにかく、「断ること」、これにつきると思っています。

 本書は、「断ること」の重要性を述べ、自分の得意・不得意を見極めて「時間という資源」を得意分野のために配分し、生産性を高めていく秘訣を説いている。

 「滅私奉公」を強いる上司やクライアント、「同調」を強いる人とのやりとりは難しいもので、「同調圧力」をはね返すより、つき合っておく方が楽な場合も多い。だが、つき合うほどに相手からの「依存」は強まり、どこかの時点で「断ること」になった途端、それまでの人間関係が灰燼に帰した・・・という苦い経験は、誰にもあるだろう。

断ることには「嫌われる」リスクがつきまとう

 相手が人間であり、心を持っているということについての理解が浅く、自分のために尽くしてくれるロボットくらいにしか思っていないような人に対しては、早い段階で対処して人生の時間のロスを防ぐ必要があるが、「断ること」には「嫌われる」リスクがつきまとう。

 著者は、「断らなく」ても嫌われることはゼロに出来ないと書き、将来のリターンを最大限に確保したいなら、嫌われるリスクを覚悟のうえで「リターン・マキシマイズ(最大化)戦略」を取った方がいいと言う。

 ただし、むやみに嫌われる必要はなく、相手の思考パターンをプロファイリングして「自分と相手とは合わない関係性=構造である」と判断できたなら、相手との距離を取る。嫌われる状態が相手に起因して、その相手を直せない状況であれば、状態を払拭しようとしたところで自分のパフォーマンスを下げるだけ。「断る力」を適切に行使し、自分の能力を最大限に発揮できる環境を、自ら作り上げていくべきだ、と書いている。