(歴史ライター:西股 総生)
城郭建築のプロポーションを端正に捉える
3月13日に掲載した「城を撮るのに最適画角のレンズは?」では、ズームに頼って作画するのではなく、一定の焦点距離(画角)で決め打ちした方が作画センスがアップする、という話をした。そして、広角・標準・望遠それぞれの描写の違いを説明しながら、35mm広角レンズと50mm標準レンズで城を撮り比べてみた。
ここでもう一つ、提案がある。「中望遠」と言われるカテゴリーのレンズを、城の撮影に積極的に活かしてみよう、という提案だ。
中望遠とは、35mm判換算で70mm~150mmくらいの焦点域を持つレンズを指す。本格的な望遠レンズの一歩手前、という感じのカテゴリーだ。中望遠の焦点域は、スポーツや野鳥・乗り物などを撮るには少々短めである。とくに85mm~100mmの焦点域は、人が対象を凝視したような描写になるので、風景やポートレート写真にはよく利用される。
この焦点域は、たいがいのズームレンズでカバーできるので、ズームを85mmとか100mmに設定して決め打ちすれば、よさそうなものだ。しかし、筆者はあえて「単焦点の中望遠レンズ」を使ってみることをお勧めする。
単焦点の中望遠レンズを城の撮影に使う理由は、ずばり、「天守・櫓・城門などの城郭建築がもっとも美しく写るレンズ」ということにある。とくに85mmクラスの単焦点レンズを使うと、城郭建築のプロポーションを端正に捉えることができる。
前稿(3月13日)では、画角的に適度な広がりがある35mmレンズより、50mm標準レンズの方がプロポーションが正確に写し撮れる、という話をした。とはいえ城郭建築には高さがあるし、櫓や天守は石垣の上に載っているのが普通だがら、どうしても下から仰ぎ見るアングルになりがちだ。つまり、パースがついて建物が上すぼまり気味に写る。
そこへ行くと中望遠レンズは、画角が狭い分、標準レンズより離れた場所から撮ることになるから、水平に近いアングルで撮る形になる。しかも、標準レンズに比べると遠近感が軽く圧縮されるから、スラッとしたプロポーションに写る。
論より証拠。福山城の天守を50mm(ズーム)で撮った写真4と90mm相当の単焦点で撮った写真5とを、見比べてみてほしい。50mmでは天守の堂々とした感じは出ているが、福山城天守特有のスパルタンなプロポーションは、90mmの方がうまく表現できていることが一目瞭然である。
しかも、このクラスの単焦点レンズは、大口径で高画質な割に比較的コンパクトで、価格もリーズナブルだ。筆者が、城旅のときに愛用しているオリンパスのM.ZUIKO 45mm f1.8は、35mm判換算なら90mmに相当するが、ぐい飲みくらいのサイズでポケットにも楽々収まる。量販店なら3万円ちょっとで手に入るから、無理にローンなんか組まなくても、その気になれば買えてしまう。
それでいて、ズームでは決して味わえない、高解像度・高コントラストの描写がえられる。ちなみに、知り合いの城好きの女性が、たまたま筆者と同じオリンパスを使っていたので、このレンズを勧めてみたら、「今までズームで撮っていた写真は何だったんだろう?と思えるくらい、きれいに撮れる」と喜んでいた。
たいがいのメーカーは、85-90mmクラスの単焦点レンズはラインナップしているし、どれも高画質が期待できる。となったら、近世城郭の写真を撮る人は、チャレンジしてみる価値は充分あるのではないか。(つづく)