- 「脱原発」の見直しを図る国が増えているヨーロッパだが、スペインのサンチェス政権は、国内の原子力発電所を2035年までに段階的に閉鎖すると閣議決定した。
- スペインでは左派が政権を握ると脱原発にアクセルを、右派が政権をとるとブレーキを踏むという関係にあるが、任期満了後に実施される総選挙で左派が勝利するかどうか。
- エネルギーの安定供給は経済運営の基本。原子力政策が政争の具と化している国は少なくないが、脱炭素化という長期目標の実現のためには、その国の実情に応じた方法が模索されるべきだ。
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
脱炭素化を重視するヨーロッパでは、スウェーデンのように脱原発の見直しを図る国が出てくるなど、原子力発電を拡大させようという動きが広がっている。
こうした流れに抗うように、スペインのペドロ・サンチェス左派連立政権は、12月27日、予定通り2035年までに国内の原子力発電所を段階的に閉鎖することを閣議決定した。
脱原発の実現は、サンチェス首相を擁する中道左派政党・社会民主労働党(PSOE)の党是である。
もともと石油資源に乏しいスペインでは、1973年に石油危機を経験したこともあって、フランシスコ・フランコ独裁政権(1939-1975年)の下、積極的な原子力政策が採用され、1980年代に7基の原発を稼働させた経緯がある。
しかし民政移管後、1982年に初めて政権の座に就いたPSOEは、フェリペ・ゴンザレス元首相(1986-1996)の下で、それまでの積極的な原子力政策を修正し、計画されていた原発の増設を凍結した。
背景には、1979年に米国で発生したスリーマイル島事故を受けて、原発の増設に対して慎重な民意が盛り上がったことがあった。
その動きは、2004年から2011年にかけてスペインを率いたPSOE政権(ホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロ元首相)の下で加速した。国内で稼働する原発を段階的に閉鎖すると発表し、脱原発の姿勢を鮮明にしたのだ。
その後、サパテロ政権に代わったマリアーノ・ラホイ元首相率いる中道右派政党・国民党(PP)政権は、一転して原発の維持に方向を転換したが、2018年に就任したサンチェス首相がまた覆し、2035年までに国内で稼働する原発をすべて閉鎖すると決定していた。
このようにスペインの原子力政策は、PSOEが脱原発のアクセルを、対してPPがブレーキを踏むという関係にある。
この過程で、電源構成に占める原子力の割合は低下し、再エネが占める割合が拡大した(次ページ図表1)。