愛人はダブルスパイで米国に情報を流した?

 本来秘匿すべき高級官僚との関係や私生児について、こういう「におわせ」をする彼女の意図について、秦剛が異例のスピード出世をすることになって、傅暁田が捨てられると焦ったのではないかという噂も流れた。

 実際、傅暁田と秦剛の不倫関係の噂はかねてから結構信じられていた。たとえば風雲対話で秦剛をゲストに招いたときにいくつかのツーショットをブログにアップしているが、その見つめ合う様子がまるで恋人同士に見える、と話題になっていた。

 ただ、中国官僚が愛人をつくることなど、そんなに珍しいことでもない。最近でいえば、元政治局常務委員の張高麗も、女子テニスプレイヤーの彭帥を愛人にしていた。習近平自身も福建省長時代に厦門テレビのキャスター、夢雪という愛人がいて、子供もいるともっぱらの噂だ。

 噂程度で、秦剛が失脚するとなると、それは愛人・私生児の存在自体が問題ではなく、権力闘争に巻き込まれたか、なにがしかの理由で習近平の秦剛に対する寵愛が消えたからだ。

 もう一つの理由として、傅暁田が実はダブルスパイであり、米国に情報提供していたことが発覚した、という噂だ。中国で新華社やCCTVの特派員記者が中国のスパイ、工作員であることは常識だ。彼らは記者として情報を集め報道する仕事のほかに、駐在国の政界財界の人脈を通じて駐在国の政策や世論を中国に有利なように誘導したり、機密性の高い情報を得たりして、共産党中央にリポートを出すことも任務に含まれる。ただ、メディア系工作員は、最初からその正体が相手にばれている分、ダブルスパイにリクルートされることも多い。

 フェニックステレビは劉長楽という解放軍出身の実業家が長らく最大株主であり、解放軍系、あるいは安全部系の工作員が多いといわれていた。劉長楽は江沢民、曽慶紅ら習近平の政敵に近い存在であり、2021年6月、金融汚職問題を理由にフェニックスの董事会主席を辞任した。これは習近平による粛清だとみられている。この劉長楽粛清に恐れをなした傅暁田が、米国に脱出するつもりでダブルスパイに転じた可能性を指摘する人もいる。