設立から70年以上の歴史を誇るベーカーマッケンジーは、世界45か国に74オフィス、6,000人以上の弁護士を擁する、世界最大級の国際法律事務所。ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業)は、その日本における拠点事務所として昨年、設立50周年を迎えた。パンデミックの余波、収まりを見せない地政学リスクなど、先の見えにくい世界情勢において、いかに多くのグローバル企業をサポートしていくのか。次の50年に向けた戦略を、ベーカーマッケンジーのグローバルチェアと東京事務所の共同代表パートナーに話を聞いた。
コロナ禍で試された「適応力」
── チェン グローバルチェアが就任後間もなく、世界は新型コロナウイルスの猛威に晒されました。その厳しい環境の中、どのような目標を掲げ、実行してきたのでしょうか。
チェン氏 新型コロナウイルスの影響により、グローバル企業はロックダウン、リモートワークへの移行、大規模なレイオフなどを余儀なくされました。そこで私たちに求められたのが「適応力」です。世界中のネットワークを駆使し、世界各国で起きている地政学的な摩擦を考慮しながら、変化に富んだ取り組みを行ってきました。コロナの状況を見極め、かじ取りの指針となる「3R」—Resilience(反発)、Recovery(回復)、Renewal(再生)—というフレームワークを、業界の先陣を切って提案しました。例え今はコロナ禍によって企業の投資マインドが収縮する「反発」期でも、すぐに「回復」し、いずれビジネスモデルの転換も含めた「再生」期を迎える、というメッセージです。国、産業さらには各企業により迎えるフェーズは異なるため、それぞれの状況を可視化できる仕組みを構成し、最良の解決法、戦略を見いだしてきました。現在は再生期の先を見据えています。
── そんな中、2021年7月に、ラフテリーさんと高田さんがベーカー&マッケンジー法律事務所の共同代表パートナーに就任しました。お二人の役割を教えてください。
ラフテリー氏 私の役割は、グローバルおよびアジアを中心とした戦略を見極め、日本企業にとって有益となる部分を採用していくことです。お客様へ世界の法律動向を常に周知できるように、さまざまな国の同僚と連携し、情報交換や談論に多くの時間を費やしています。私はオーストラリア出身ですが、日本がとても好きで学生時代には留学もしました。それ以来、実に25年以上、つまり人生の半分以上を日本で過ごしています。
高田氏 私はギャビンとともにグローバルに連携しながら、日本における戦略を立案・実行しています。中核となる国内業務とともに、インバウンドとアウトバウンドのクライアントワークを、東京および他のオフィスからチームを組成して、ベストなサービスを提供します。また、幼い頃に世界遺産の宝庫ともいわれる南米ペルーで過ごしていたこともあり、仕事の際は多様な観点から物事を捉え、対話から相手の置かれた状況を読み取る習慣が身についていると自負しています。
ターゲットを絞った投資でビジネスチャンスを
──現在のベーカーマッケンジーの方針や戦略についてお聞かせください。
チェン氏 この1年間で多くの市場が再開され、私も最近では世界各国を巡回するなど、積極的に同僚との交流を深めています。私たちはアフターコロナに向けたオペレーションへシフトし、新しい人材やテクノロジーなど、戦略的な投資を続けています。
ラフテリー氏 業種別でみると、ヘルスケア・ライフサイエンスとテクノロジー産業の動きは活発で、私たちも注力しているところです。また、世界におけるエネルギー価格の上昇や、サステナビリティの観点からも、エネルギー転換は重要な分野となっています。
チェン氏 不動産業界も非常に活発ですね。私の出身地であるシンガポールでは、不動産がビジネスの話題の中心となっています。他のアジア地域から多くの人や企業が、より魅力的な投資先としてシンガポールへ進出しているのです。ベーカーマッケンジーでは、シンガポール、中国および日本を、アジアにおける注力市場と位置づけています。
高田氏 私は現在、インクルージョン&ダイバーシティ(I&D)のグローバル委員も務めています。近年では新たに入所する新人弁護士の男女比率を均等にするなど、I&Dを積極的に推進。もちろん、キャリア育成や最高レベルの人材採用にも注力しています。
チェン氏 また、世界中の企業がデジタル時代を受け入れ、適応していく中で、私たちも高度な機械学習を法務分野へ応用し、テクノロジーへの投資を続けています。人工知能を使って当事務所やインターネットから集めた膨大なデータを分析し、特定のお客様が近い将来どのようなリーガルサービスを必要とするかを予測。また、さまざまな社会貢献活動にも活用しています。
6テーマを軸にしたソリューション
── 年々複雑化するグローバルビジネスを成功に導くために、世界各地のクライアントにどのようなソリューションを提供しているのですか。
チェン氏 私のチェアとしての役割は、あらゆる国で効果を最大限に引き出せるグローバル戦略を策定すること。お客様に最高のサービスを提供すべく、戦略の標準化を追求しています。
ラフテリー氏 リスクを軽減しながらビジネス目標を達成するためには、統合的な視点が不可欠です。ベーカーマッケンジーは、現地マーケットの深い知識に基づいた統合的なクライアント・ソリューション ― すなわちグローバル展開する企業が幅広く直面するテーマ ― を選定し、お客様が抱える課題解決に努めています。
高田氏 ベーカーマッケンジーのクライアント・ソリューションは、お客様へのインタビューの回答などを元に導き出しています。現在は、次の6つのテーマを掲げており、日本では特に「デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)」と「サステナビリティ」に注力しています。
DXに必要なテクノロジーの規制をカバー
── 現在、多くのグローバル企業がDXを推進していますが、ベーカーマッケンジーではどのようなサポートを行っているのでしょうか。
高田氏 DXの推進は、テクノロジーへの初期投資が重要となりますが、データプライバシーや知的財産権保護をはじめ、テクノロジーを取り巻く規制は複雑化しています。そのような環境でDXを成功させるためには、マネジメントレベルでこれらを初期段階から十分に理解する必要があります。
ラフテリー氏 私たちはヘルスケア・ライフサイエンス、自動車産業、不動産をはじめ、幅広い産業分野の専門グループを形成しているため、俯瞰的かつ横断的なアドバイスが可能。ドローン、自律走行車やメタバースなど、規制の枠組みがまだ構築されていない分野にも対応しています。
戦略の中核となる「サステナビリティ」
── ベーカーマッケンジーのサステナビリティ戦略についてお聞かせください。
チェン氏 気候変動に関する業務を、20年以上前に業界の先陣を切って立ち上げて以来、常に革新的な取り組みを推進。世界経済フォーラム(WEF)、国連グローバル・コンパクト(UNGC)、持続可能な発展のための世界経済人会議(WBCSD)などの国際機関と協力し、サステナビリティの規制や先駆的な政策の形成に貢献しています。
高田氏 主要なマーケットや産業におけるトランザクション、アドバイザリー、係争案件に関する専門知識と、グローバルとローカルの2つの視点から、サステナビリティに関する大局的な課題、および特定の法的リスクに向き合っています。
ラフテリー氏 私たちはサステナビリティの目標設定から実現に向けた取り組み、実行した方策のチェック、改善策の提案まで、お客様のサステナビリティ推進に関わるあらゆる業務をサポートします。
クライアントやパートナーとともに進化
──新コンセプト「Solutions for a connected world」に込めた想いをお話しください。
ラフテリー氏 ビジネス社会はかつてないほど相互につながっています。私たちは統合されたクライアント・ソリューションによるシームレスなアドバイスを通じて、日本企業を世界とつなげていきます。
高田氏 日本では、欧米で先行するESGに関する議論をはじめとする最新トレンドをキャッチしつつ、日本企業にとって最良となるソリューションを提供します。日本企業が世界をリードできる分野はまだ十分にあります。
チェン氏 私たちはお客様の真のニーズを見つけ、共に成長できるベストパートナーであると、揺るぎない自信を持っています。グローバルネットワークに加え、多様性を尊重し、どこでも1つのチームとしてシームレスに業務を遂行できる文化も、私たちの大きな強みです。これからも世界のパートナーとともに、グローバルでのあらゆる課題に取り組み、共に進化していくことを楽しみにしています。
DX成功の条件は
グローバル視点での大胆なビジネスモデルチェンジ Lawyer’s eyes(法律事務所の新提言) グローバルビジネスの指針vol.2
企業活動の基盤となるコンプライアンスの今
カギは最新トレンドの把握と俯瞰的なリスク分析 Lawyer’s eyes(法律事務所の新提言) グローバルビジネスの指針vol.3
世界のビジネス必須項目 サステナビリティ
長期的視野、ステークホルダーとの共創を軸に Lawyer’s eyes(法律事務所の新提言) グローバルビジネスの指針2021-2022 vol.1
法で紐解くサプライチェーンリスク
法的知見で新たなリスク把握をし、守りから攻めへ