ニューノーマルの下で重要性がますます高まっているデジタルトランスフォーメーション(DX)。中国や欧米といったデジタル先進国では、新型コロナウイルスの影響によりDX化がさらに加速し、成功企業と出遅れている企業の格差も拡大。デジタル庁の発足に向けた動きが活発化している日本でも、人が集まらないことを前提とした業務、サービス、販売、開発などへ企業経営の変化対応を迫られている。DXの推進にはグローバルな視点も必須だ。そこで、世界46か国に77オフィス、6,000名以上の弁護士を擁する、世界最大級の国際法律事務所 ベーカーマッケンジーの専門家にインタビュー。海外での成功事例を参考に、日本企業がDX推進を成功させるためのヒントを聞いた。

DX先進国の最新情報をいち早く把握

「日本企業からDXに関するご相談を受けるようになったのはここ2年ほどですが、DX先進国である欧米に拠点を置く当グループの海外オフィスでは、4~5年前から多数の案件に携わっています。当事務所は医療・ライフサイエンス、自動車産業、不動産をはじめ、幅広い産業分野に精通。DXで先行している産業の知識も豊富ですので、これからDXの推進を目指す企業に的確かつ産業を跨いだ横断的なアドバイスができます」

そう語るのは、ベーカー&マッケンジー法律事務所のDXタスクフォースでリードを務める高瀬健作氏だ。DXの推進が遅れている日本企業にとって、同業種におけるグローバルレベルの状況や法的課題といった情報は重要。世界中に張り巡らされたベーカーマッケンジーのネットワークがあれば、海外の潮流をいち早く把握することができる。

ベーカーマッケンジーは開業約70年の歴史を有する。国単位で事業を行う法律事務所が多い中、当初からクライアントのニーズを第一に、国境を越えた横断的な連携により、世界最大規模の事務所に成長した。

「保険会社のデジタルアプリ導入に関する複数法域での知的財産や税務などのアドバイス、デジタル企業が新規ソリューションの技術紹介を海外で行うためのデューデリジェンス(調査・査定)や各国規制当局との対応、ヘルスケア企業のデジタルソリューション導入における法的アドバイス、サービスのデジタル化を目指すホテルチェーンに向けたITサービスのモデル設計、国選別、税務アドバイスなど、多岐にわたって海外クライアントのDX案件を成功裡へと導いています。日本でもIT企業や機械メーカーなどから個人情報保護はじめ、DX関連の問い合わせが増えています」(高瀬氏)

ビジネスモデルの変革が必要な業界も

高瀬氏はテクノロジー・メディア・通信分野のDX化もサポート。例えば、メディア会社は従来、テレビやラジオを中心としていたが、インターネット放送などにも拡大したことで、ビジネスモデルを切り替えなければならなかったという。

「メディア事業を展開している企業は、組織自体を変える必要もあり、合併に関する問題や合併時の税金、知的財産の保有場所など、さまざまな方向からアドバイスさせていただきました。合併のリスク対策や合併先との交渉も行い、クライアントが抱えるあらゆる法律問題をクリアしました」(高瀬氏)

高瀬氏は知的財産・情報通信グループの代表も務める。

デジタル時代における企業の重要な資産はデータだ。既存ビジネスから得られるデータを分析してソリューションに活用するというビジネスモデルに転換できるかどうかが、成功への大きなカギとなる。一方、データ主導のビジネスモデルでは、データプライバシーやサイバーセキュリティー、独占禁止法、税務、ブロックチェーンなど、さまざまな法的課題が表出する。主に製造業を担当している穂高弥生子氏は、近年多くの企業が取り組み始めているデータ利活用ビジネスに精通する第一人者だ。

「製造業におけるDXの中心的な命題は、モノづくりから、モノが取得したデータを活用するサービスプロバイダに転換するという、ビジネスモデルのチェンジをいかに達成するかということです。私たちはデータの利活用ビジネスを最適化し将来の成長につなげるため、グランドデザインを描く段階からサポートを行っています」(穂高氏)

攻めに転じるデータビジネスの3つの主な法的課題

数々のデータビジネス案件を手掛けてきた穂高氏によると、考慮すべき主な法的課題は次の3つだという。

グローバルのDXサービスラインチームでデータ利活用ビジネスにフォーカスしている穂高氏。

「一つ目はデータプライバシーですが、データは国境を越えるため、日本法だけではなく、データがやり取りされる全ての国の規制をクリアしなければなりません。気を付けなければならないのが、何が個人情報とされ、データプライバシー法の適用を受けるかについて、各国の考え方がかなり違うということ。よくあるのが、日本では特定の個人の識別性が失われているから個人情報でないと考えられるデータを、そのままGDPR(一般データ保護規則)を採用しているEU諸国でも「個人データではない」として扱ってしまうという間違いです。欧州のGDPRばかりが注目されますが、GDPR類似の法制をとる国は増え続けています。グローバルでGDPR対応型のビジネスモデルをとるのか、国ごとにビジネスモデルを変えるのか、企業にとっては悩ましいところです。

二つ目は競争法です。データビジネスには膨大なデータが必要ですが、データの独占が競争法の観点から制限される場合があります。現に、一定規模のデータを保有する企業に対し、公正な競争を担保する観点から、競争者に対して保有データへのアクセスを認めることを義務付けるという流れが、EU諸国を中心に起こっています。

三つ目はTax(税制)、特に移転価格の問題です。製造業を例にとると、今までは日本のメーカーが、研究開発機能は日本に残しつつ海外子会社に対して技術をライセンスし、子会社が現地で製造を行って販売するというのが典型でした。しかし、その製品から収集されるデータを利用したビジネスが主流となった場合、本社と海外子会社の間の利益やリスクの配分の方法は今までと全く異なることになります。グループ全体でどのような収益の最適化の青写真を描くかは、企業の将来的な成長への極めて重要な問題となります」(穂高氏)

データ利活用に特に重要な、データプライバシー、競争法、移転価格・税務のためのプランニングから実行までを包括的にサポート。

あらゆる産業における喫緊の課題

このように、ITやヘルスケアといったデジタルが元々得意だった業界だけにとどまらず、製造業はじめデジタルとはほとんど無縁だった業界まで、幅広い産業においてDX化への早急な対応が求められている。また、それに伴う法律対応も急務だ。

「アパレルやグッズなどのメーカーであれば、今までTVや雑誌で宣伝して店頭販売していたビジネスモデルを、オンライン市場向けに転換しなくてはなりません。当然、PRもオンラインになるため、インフルエンサーの使い方や、各国におけるソーシャルメディアで宣伝可能な商品の選定など、新たにさまざまな法的問題も発生します。スムーズなビジネスの変革の実現を目指し、私たちも長期的な視点から全力でサポートしていきます」(高瀬氏)

コロナ禍によって働き方改革への関心も高まるなか、リモートワークなどの体制をすぐに確立できた企業と出遅れた企業との差が鮮明に表れている。ベーカー&マッケンジー法律事務所は、雇用、税金、サイバーセキュリティーなど、働き方改革を推進するために必要なノウハウの提供や税務・法務面のアドバイスにも注力している。

DX推進プロジェクトメンバーの組成

日本の企業は弁護士と顧問契約を結ぶケースが多いが、全ての分野に精通しているとは限らないため、注意が必要だ。海外ではクライアントが期間ごと、案件ごとに複数の法律事務所を競争させて選ぶスタイルが主流で、日本の企業にも浸透しはじめていると高瀬氏は語る。

「例えば10の法律事務所が価格や弁護士・サービスの質などを競った結果、今後2年間の案件に関して3つの弁護士事務所が選定されたとします。その後もクライアントが案件ごとにその3つの法律事務所の中からセレクトするため、常に危機感を持って臨んでいます。海外案件が多い当事務所も同様です」

日本の企業は、法律の課題はまず法務部で対応し、どうしても解決できない時に弁護士へ相談するパターンが多い。しかし、DXに関しては法務部が今まで扱ってこなかった法分野の問題も多く、ビジネス先行で進めた結果、法律面の課題が後から重くコストと共に降りかかるケースも多いという。

「多大な労力や時間をかけてビジネスの土台が完成した後、最終段階になって法律に抵触することがわかり、ビジネス自体を見直さざるを得ないという例もあります。結果として、DX化がますます遅れてしまうことに。そこで私たちは、クライアントのDXプロジェクトにメンバーとして初期段階から参加させていただき、定期的に状況を把握し、問題を見つけ次第、解決策を提示しながらビジネスを軌道修正していく。このスキームによって日本企業に寄り添い確実にDX化を進めます」(穂高氏)

プロジェクトスタート時からメンバーの一員となり、法的課題を多角的にサポート。「お客様と同じ目線に立った、パートナーシップを取り共に成長するのが私たちのスタイルです」(高瀬氏)

世界6,000名の専門家がワンチームでサポート

最後に、「世界での挑戦を目指す日本企業とともに歩みたい」と、二人は熱く語った。

「蓄積された各業界の情報やノウハウをグローバルレベルで提供できるのが私たちの強み。ヘルスケア分野を例に挙げると、今までレントゲン写真を見てドクターが診断していた医療機関と、優れたAI技術を持つ企業が異業種コラボしたことで、病気の早期発見や新薬開発の可能性も高まりました。このような新しいビジネスマッチングに関する法的アドバイスも積極的に行っています」(高瀬氏)

「ベーカーマッケンジーのグローバルDXサービスラインのメンバーは現在200名以上おり、案件の枠を越えて、あらゆる情報・ノウハウを恒常的に共有し、ファーム全体で取り組んでいます。私も95%はベーカーの海外事務所と共同して行う案件。6,000名がワンチームとなって日本企業が直面するさまざまな課題をともに解決しています」(穂高氏)

「ベーカーマッケンジーは、お客様の法的なリスクとチャンスを早期に特定し、ウィズコロナ・ポストコロナでのビジネス変革を成功させるためのDXの実現をフルサポートしています」

問い合わせ先

ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業)
〒106-0032
東京都港区六本木1-9-10
アークヒルズ仙石山森タワー28F
電話 03-6271-9900
https://www.bakermckenzie.co.jp/

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