青森県・六ヶ所村の核燃料再処理施設。建設中の様子(1995年4月13日、写真:Fujifotos/アフロ)

(池田 信夫:経済学者、アゴラ研究所代表取締役所長)

 自民党総裁選挙で、各候補の主張がだんだん明らかになってきた。特に有力候補とみられる河野太郎氏が核燃料サイクルの廃止を打ち出す一方、岸田文雄氏がその存続を主張し、政策論争の争点に浮上してきた。

 この問題は今まで「核燃料サイクル廃止=原発廃止」と短絡的に理解され、反原発派はサイクル廃止を求め、推進派はその維持を求めるという対立が続いてきたが、これは誤解である。サイクルをやめ、行き詰まった原子力産業を再生させることが脱炭素の決め手なのだ。

核燃料サイクルは19兆円以上かかる大赤字プロジェクト

 まず核燃料サイクルを簡単に説明しておこう。これは1990年代に始まったもので、本来は図の右のように原発から出た使用済み核燃料を再処理工場で処理してプルトニウムを抽出し、それを高速増殖炉(FBR)で燃やす。FBRは消費した以上のプルトニウムができる「夢の原子炉」といわれたが、その原型炉「もんじゅ」は2016年に廃炉になり、高速増殖炉サイクルは不可能になった。

図 核燃料サイクルのしくみ(資源エネルギー庁)
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「ウランの埋蔵量が80年分しかないので再処理で使い回す必要がある」という話も、採掘技術の進歩で非在来型ウランが採掘できるようになり、意味がなくなった。その埋蔵量は300~700年と推定され、海水ウランはほぼ無尽蔵である。コストも在来型の2倍程度まで下がり、核燃料サイクルよりはるかに低コストである。

 しかしその後も政府は、軽水炉サイクルを維持している。政府がそのメリットとしているのは、高レベル核廃棄物からプルトニウムを抽出してガラス固化し、体積を1/4程度にして地層処分しやすくすることぐらいしかない。

 そのための再処理工場は青森県六ヶ所村で完成しており、来年(2022年)から運転開始する予定である。その建設費は2兆9000億円だが、これからそれを運転してできるMOX燃料(プルトニウムとウランの混合燃料)のコストはウランをそのまま燃やすコストの9倍である。

 これは電力会社が買い取ってプルサーマルと呼ばれる原子炉で燃やすが、ウランを再処理してわざわざコスト9倍のMOX燃料に加工し、それを燃やすのは膨大な無駄づかいである。

 これについては2004年に19兆円の請求書という怪文書で「再処理工場を動かすと今後40年間で19兆円~50兆円のコストがかかる」と経産省の官僚が内部告発した。

 この怪文書には「核燃料サイクルに異議を唱える有識者」の一人として河野太郎氏が入っている。彼は20年近く前からサイクルに疑問をもち、その廃止を主張してきた。その理由は単純である。大幅な赤字の見込まれる核燃料サイクルは、ビジネスとして成り立たないからだ。なぜこんな赤字プロジェクトが、それからも20年近く続いてきたのだろうか?