日本シリーズ4連覇をはじめ、ここ数年で圧倒的な結果を残している福岡ソフトバンクホークスには、異色の「デジタル人材」がいる。
GM補佐兼データ分析担当ディレクターの関本塁だ。
関本は愛媛大学卒業後、システムエンジニアとしてシステム開発会社に就職したが、大学まで打ち込んだ野球の魅力に再び引き寄せられ、データスタジアム株式会社に転職。「一球速報」のシステム開発にも携わった。
その能力と経験が買われ、2012年12月、ホークスに入団。スコアラー業務のIT化を進め、選手たちが気軽にデータにアクセスできるシステムを構築した。球界内では関本らデジタル人材が4連覇の要因のひとつと言われている。
プロ野球界きってのデータのプロに、「根性」について聞いた。
和田毅投手インタビューはこちら
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/66698
(木崎伸也:スポーツライター)
データ分析で明らかになる「偽りの球種」
──まずは変化球について聞かせてください。最近、野球界ではスラッター(スライダーとカットボールの中間のようなボール)やスラーブ(カーブとスライダーの中間的な球種)など新しい変化球が登場してきていますね。分析の立場からどう見ていますか?
いろいろな意味で「難しくなってきている」と感じています。
僕らは選手に伝える立場なので、「細分化するほど」いいものになるわけではありません。伝えやすくするために、まとめなきゃいけない。一方で、それに(まとめることに)よって抜け落ちる情報もある。そこのギャップをどうするかですね。
──関本さんたちは変化球をどう分類していますか?
分けていないんですよね。「分けられていない」という方が正しいかもしれません。
(打者から遠ざかる方向に)曲がる系の球種でいえば、カット、スライダー、カーブが従来のものとしてあり、今はその間みたいなボールがいっぱいありますよね。
ある人が「あの球はスライダーだ」と言っても、打者が「いやカットだったよ」と言うこともある。真っ直ぐ寄りのちょっと曲がるボールをなんと呼ぶ? みたいな問題が生まれるわけです。
逆方向の曲がりで言えば、ツーシームなのか、シュートなのか、シンカーなのか。横曲がりが強かったら、それはツーシームじゃなくてシュートだという議論になる。
であれば「角度が何度」みたいな話の仕方をした方が早いかもしれません。今はバッターとコミュニケーションを取って、意識を合わせています。
ただ確実に言えるのは、投手は明らかにそこを狙っています。
──定義できていない隙間を、投手は狙ってくるわけですね。
そうです。間を狙う人が増えてきています。
──増えてきたのはいつくらいからですか?
2、3年前くらいから始まっていると思うんですけど、顕著になっているのは今年なんじゃないですかね。
どんどん細分化されていて、たとえば「真っスラ」は、真っ直ぐがスライダーしただけで、変化球じゃないという考えもある。
そういうことを言い始めたら、伝え合うときにさらに混乱が生まれやすいですよね。
──これから対応が迫られますか?
もう迫られていると思っています。そういう意味で、これも術中のひとつだなと思います。言語化できない間を狙っているわけですから。
ただ、わざと違う球種を言っている選手は、昔からいたと思います。たとえば元巨人のある投手は、絶対カーブなのにスライダーと言い張り続けていた。確信犯だと思います。
ホークスにいたある投手も、本人はパームだと言い続けていましたが、本当はスライダーなんじゃないかと言われていました。
今は球場に設置された弾道測定器「トラックマン」で回転数や回転軸がわかるので、2、3年後には新たな分類法が生まれているかもしれません。今、それくらいのスピードで変化が起こっていると思います。