麻生太郎首相が、「郵政民営化には賛成でなかった」と言いました。たまりかねたように、小泉純一郎元首相は、「怒るというより笑っちゃうくらい、ただただあきれている」と言いました。鳩山邦夫総務大臣は「かんぽの宿」の払い下げを問題にしています。郵政民営化はどうなっているのでしょうか。

根本的政策に無理があった郵政民営化

 郵政民営化が可決された2005年、私は郵政特別国会の最初の特別参考人として意見を述べ、本も出版して郵政民営化の問題点を指摘しました。でも、私の発言など小泉劇場の興奮にかき消され、選挙が終わると、メディアからも人々の口からも郵政民営化など消えていきました。

麻生首相、中川前財務相の失態で陳謝

「郵政民営化には賛成でなかった」と発言した麻生太郎首相〔AFPBB News

  あとは野となれ山となれ、でしょうか。国鉄再建監理委員会委員長として国鉄民営化を支え続けた亀井正夫氏のように、最後まで責任を持って改革を支え続ける人はいません。
もともと、郵政民営化の根本政策に無理があるのです。

 1999年に、当時の小泉議員が『郵政民営化』と題した本の中で指摘した郵便局の問題は、一面では本質を突いたものでした。

 国家信用による郵便貯金が膨張し、その資金が自動的に道路公団などの特殊法人に配分され、無駄な公共事業に使われている。だから、郵政民営化によって、こうした資金の配分をやめるべきだ、というものでした。

 しかし、郵便局に集まったお金を預かり、特殊法人に貸していたのは旧大蔵省(現財務省)でした。財務省が特殊法人への貸し付け審査機能を持つか、さもなければ貸し付けをやめて郵便局が自分で運用するようにすればいいのです。

 事実、郵政民営化のはるか前の2001年に財政投融資の改革が行われ、郵便局は少なくとも形のうえでは資産運用の自由を得ていたのでした。その意味では郵政民営化の意味は薄れていました。

 むしろ、隠された問題の本質は、郵政の経営問題にありました。大蔵省への預け金もなくなり、0.2%の利ざやの上乗せもなくなって、収益源が減ったのです。


長期国債で運用される郵貯は金利上昇で巨額の含み損を抱えることに

 一方、200兆円を超えるまでに膨れ上がった郵便貯金のほとんどが長期国債で運用され、いったん金利が急上昇すれば、巨額の含み損を抱えます。そ こに、貯金の引き出しが急増すれば含み損は実現損に変わります。そうなれば、経営危機に陥る危険性が高い。

 ところが、この最大の経営問題に郵政民営化は手をつけていません。資金のほとんどを10年の長期国債に入れ、一方で、貯金という負債は預け入れて から半年以降はいつでも引き出せる、という資産負債のミスマッチの典型である定額貯金は存続したままです。金利上昇での経営の爆弾を抱えています。