このところ米国市場でSPAC(スパック、特別買収目的会社)を使ったIPO(新規株式公開)が話題だが、一部から不透明性が指摘されており、米証券取引委員会(SEC)が是正に乗り出している。確かにSPACの中に信頼性の低い銘柄があるのは事実だが、こうしたスキームが登場してきた背景には産業構造の大きな変化がある。こうした事情を抜きに単に規制だけを加えても本質的な解決にはならない。(加谷 珪一:経済評論家)
グラブがSPACを用いた上場を選択した理由
SPACを使った上場が特に注目を集めたのは、アジア全域に配車アプリのサービスを提供するグラブ(Grab、本社はシンガポール)の上場だろう。同社は、数カ月以内に米NASDAQに上場すると発表したが、直接上場ではなくSPACとの合併という特殊なスキームを採用している。
SPACというのは、上場時に株式市場から資金を調達して、近い将来(2年以内)に未上場企業を買収したり合併することを目的に作られた会社のことである。SPACは上場時には基本的に何もせず、買収や合併の対象となる企業が出てくるまで待っている。対象となる企業を見つけた時には、当該企業と一体化することで、事業会社への変貌を果たす。グラブの場合には、米投資会社のアルティメーター・キャピタルが設立したSPACと合併することで事実上の上場を果たし、一方、SPACは配車アプリの事業会社になる。
では、なぜグラブのような企業は一般的な直接上場ではなく、SPACを用いた上場というスキームを選択するのだろうか。