参議院予算委員会でNTTとの会食を認めた総務省の谷脇康彦総務審議官(中央、2021年3月4日、写真:つのだよしお/アフロ)

(池田 信夫:経済学者、アゴラ研究所代表取締役所長)

 菅義偉首相の長男の接待から始まった総務省のスキャンダルは、ついにNTTに波及した。今週発売の『週刊文春』(3月11日号)によれば、NTT(持株会社)の澤田純社長などが総務省の谷脇康彦総務審議官や山田真貴子前内閣広報官などに高額接待を繰り返していた。これは国家公務員倫理法に違反する疑いがあるが、本質的な問題はそこではない。

 NTTが接待した2018年9月は、澤田氏が新社長に就任した直後だが、そのころ菅官房長官(当時)は「携帯電話は4割値下げする余地がある」と発言した。その言葉どおり2020年にNTTはドコモを完全子会社にし、大幅値下げを行った。その責任者が谷脇氏である。つまり電波行政の方針が、この密室の会食で決まった可能性があるのだ。

高額接待で何が話し合われたのか

 谷脇氏はNTT側との会食の事実を認め、NTTも認めた。他にも文春の記事にはNTTの鵜浦(うのうら)博夫前社長や総務省の巻口英司国際戦略局長なども登場するが、本筋は谷脇氏である。彼の受けた接待はこれまでわかっているだけで3回で、合計58万円だが、これ自体は贈収賄に問われるような額ではない。問題は、そこでどんな話し合いが行われたかだ。

 この接待は菅官房長官の「4割値下げ」発言が出た直後だが、日本の携帯電話料金は原則として自由なので、政府が決めることはできない。値下げを実現できるかどうかが「ポスト安倍」の有力候補とされていた菅氏の政治力を示すことになる。

 この問題を解決するために、総務省はNTTの社長人事に介入した。NTTの社長は「技術系」と労務・人事などの「業務系」が交代で就任する慣例があり、2018年6月まで6年間、業務系の鵜浦氏が社長をつとめていた。

 次は技術系の順番だったが、持株会社の主な仕事は政府との交渉で、技術系にはそういうプロが少ない。そこで鵜浦氏が会長になって総務省との窓口をつとめると思われていたが、鵜浦氏は相談役に退いて代表権を失い、会長にも技術系の篠原弘道氏が就任する変則的な人事になった。

 これはNTTの出した当初の会長人事案を総務省が認可しなかったためといわれたが、鵜浦氏に失点があったわけではない。むしろ彼は「NTT政治部長」と呼ばれて政治家や官僚と人脈があり、総務省としては手ごわい存在だった。

 2015年に安倍首相が携帯料金の引き下げを求め、高市早苗総務相がNTTに値下げを要請したときも、鵜浦氏が抵抗して値下げは実現しなかった。そこで総務省は彼を外し、政治に疎い技術系の会長・社長を支配下に置こうとしたのだろう。