「元本確保型100%」なのにお金が減ってしまう場合も

 ここからは、今回の相談のように、iDeCoを始めるにいたって陥りやすい失敗と、失敗を避けるための取り組み方を考えていきます。

 職場の全体説明会のあと、知人に「運用会社を変えた方がいい」と言われたそうですが、私の経験上、投資信託を運用する資産運用会社自体が来社して話すことは、めったにありません。職場の提携金融機関などがiDeCoの加入や利用を推進するケースがほとんどだと思います。
 多くの場合、iDeCoのメリットは話しますが、デメリットについて、特に肝心な運用商品のリスクなどについては素通りすることもあるので、そのような前提のもとで、要点を絞って聞くことをお勧めします。
 要点としては、①運用商品の全体像を大まかにつかむ。②運用商品の数を知っておく。③運用商品の手数料などを把握する。などが挙げられます。

 よくある失敗に「商品の配分」があります。iDeCoに申し込む際にはさまざまな書類を提出する必要がありますが、中でも資産運用の初心者にとって厄介なのは、運用商品を決めなければならないことです。理想を言うと、資産配分を決めるためには運用期間、将来の収支見通し、年金以外の資産状況、運用経験、リスクに対する考え方などを踏まえたうえで、商品の選定作業をしたいところですが、資産運用が初めての人には、なんのこっちゃ?となるのも当たり前です。
 そこで、説明会でよく見られるのが、加入者が値下がりのリスクを負わなくてもすむように、元本確保型商品(運用利回りは望めないが、リスクを取りたくない)を中心に話を進めることです。これこそ、運用初心者が陥りやすい「元本確保型100%」という失敗です。

資産運用の説明会資産運用の初心者に対しては、値下がりのリスクがない「元本確保型」は確かに勧めやすい運用商品かもしれませんが……(写真はイメージです)

 「元本確保型」のはずなのに、10年間積み立てを続けて結果はマイナス。将来のお金が増えるどころか、逆にお金が減ってしまうことも普通にあります。
 なぜか?
 それは、iDeCoの運用商品にはすべて、①金融機関の手数料(口座管理料)、②個別運用商品の手数料(購入時手数料、信託報酬、売却時手数料)のコストが掛かっているからです。
 元本確保型商品でも、拠出中は口座管理料を毎月徴収されています(金額は月170円~630円程度)。運用会社を変える際にも、加入時に手数料が掛かってくることもあります。

 iDeCoでお金を増やすためには、この①②の手数料をいかにして上抜けられるかにかかってくるのです。だからこそ、投資信託など値動きがあるリスク商品を取り入れながら、元本確保型商品とのバランスを取ることが大事だというわけです。②個別運用商品の手数料は商品ごとに違ってきます。商品の内容をよく調べなければわかりません。

節税効果を享受しながら、長い目で積立を続ける

 相談者のように、iDeCoに加入して半年ぐらいの方は、運用状況が気になるのはわかりますが、まだ始まったばかりです。やっていることは老後年金の運用なのですから、他人の意見に惑わされず、長い目で積立を行っていきましょう。それでも、前号(利回りランキング番外編)でお伝えしたように、iDeCoに加入するだけで所得税、住民税が戻ってきているのですから、大万歳です。今後、新型コロナのせいで投資信託の価格が再び下がることがあったとしても、あわてて投資信託を売ったり、金融機関を変更したりする必要はありません。あくまでもiDeCoは「老後のお金を増やすもの」として運用していきましょう。

 次回は、新型コロナの再流行を受けて、「iDeCoの運用商品などを自分だったらこう選ぶ」というアドバイスをしていくことにします。