10月5日、軍医療センターを退院し、ホワイトハウスに戻るやマスクを外すトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)

 米国のトランプ大統領が新型コロナウイルスに感染した。2日未明にツイッターで公表し、同日の夕方には軍の医療施設に入院した。1カ月後には大統領選挙が迫っている。

 ウイルスは歴史を変える。米国の大統領がウイルスに感染して歴史を変えてしまったことは過去にもある。

ナチス台頭の遠因となったウィルソン大統領の「スペインかぜ感染」

 100年前にも新型のウイルスによるパンデミックがあった。「スペインかぜ」だ。

 発生源は米国とされる。当時は欧州が第一次世界大戦にあり、戦地に派兵された米軍のテントから感染が拡大。そこから各国の軍隊へ、そして世界中へと拡散していく。しかし、戦時中だったこともあって参戦国はその実態を公表しなかった。ただ、中立国だったスペインが最初に国内での感染を公表したことから「スペインかぜ」と名が付けられた。この新型インフルエンザが第一次世界大戦を終わらせたとも言われる。

 その後のパリ講和会議。出席していた米国のウィルソン大統領は、ドイツへの賠償金請求に反対していた。ところが、この会議中にウィルソンがスペインかぜに感染して倒れてしまう。それで賠償金の請求が決まった。

 この負担がドイツに重くのしかかる。やがて経済が逼塞したところへ現れるのが、アドルフ・ヒトラーだった。