「ウイズコロナ」時代に企業が生き残るために

――日本企業が生き残っていくために何が必要か。

「ウイズコロナ」を生きていくために、すべての企業が変わらなければならないかというと、そうとも限らないと思います。これまでのビジネスモデルが通用するなら、引き続き事業を継続していけばいいと思います。ただ、それが難しそうであれば、変革が必要でしょう。

 そこで大事になってくるのが、自社が提供する本当の「価値」は何なのか、ということです。この点を突き詰めて磨いていくしかないと思います。そのとき、オペレーションコストは低いに越したことはありません。オペレーションコストは競争の足かせにしかなりません。これを抑えるのも経営努力だと思います。ITツールの導入はその一つでしょう。当社グループでも、人材サービスのマッチング精度を高めるために、デジタルテクノロジーを積極的に活用しています。オペレーションの面でも、ルーティン業務を軽減するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入などを進めています。ただ、そうしたツールの活用で、人を減らせばいいとは考えていません。ビジョンの浸透と、働くすべてのメンバーの帰属意識の醸成など、デジタルツールの力を、グループを束ねる力に使うべきだと思います。カルチャーを統一し、業務を標準化することも大切でしょう。ただそれらは、人が介在することの価値、すなわち当社の優位性の源泉に資するものでなければなりません。これは譲れないポイントです。

――コロナ禍でテレワークに取り組み、職場にどのような変化があったのか。

 当社でもテレワークを推進しているという話をしましたが、興味深い現象も起きています。それは、「やっぱり会社に行って、みんなと一緒に働きたい」という声が増えているということです。顔を上げれば同僚や先輩などがいる安心感は、何物にも代え難いものなのでしょう。仲間がいて気持ちがつながっていることがもたらす力は重要です。テレワークは生産性の向上が目的だから無駄は徹底的に省く、という考え方も一理ありますが、雑談ができる余裕や、さらにそこから生まれる創造性のようなものも必要だと思います。当社では今、テレワークでも雑談タイムのようなものが設けられないか、考えているところです。運動会や社員旅行までは無理でも、何かそういったリアルなイベントもやってみたいですし、そこに掛けるコストは無駄ではないと思います。

企業の明確なビジョンが「遠心力」を「求心力」に変える

――企業における評価制度やマネジメントの在り方も変化する今後は、社員の意識改革やモチベーションの維持も必要ではないか。

 そのとおりです。目の前に部下がいないとマネジメントができないというのではなく、目の前にいなくてもマネジメントができる仕組みをつくっていく必要があります。もちろんそれは、監視ツールを使うということではありません。リモートワークになると、どうしても「遠心力」が働きがちです。それを逆に「求心力」に変えなければなりません。マネジメントが見ていないところでも、社員が自律的に共通の目的に向かって働くのが理想です。そこで大切になるのが、経営者の明確なビジョンです。自分たちの会社が何のために存在し、そしてどこに向かおうとしているのか。分かりやすいメッセージで示すことは不可欠です。当社グループは、2019年10月から「はたらいて、笑おう。」というグループビジョンを掲げています。今回のコロナ禍を想定したものではありませんが、図らずも、この明確なビジョンがあったために、ぶれることなく「今、何をすべきか」を考え、行動できたと思います。

――ますます経営者のリーダーシップが重要になるということか。

そのとおりです。ただし、完璧でなくてもいいと思っています。数年後、経営環境がどうなっているか分かりません。失敗を恐れず、思い切ってチャレンジしてみることが大事です。だめだったら軌道修正すればいいのです。