人事の世界には、最近特に注目され、今や「ブーム」から「当たり前」の存在として定着しているものがあります。その一つが組織開発です。組織開発は、度々、日本企業でブームが起こりました。少し前までは脇役だったにもかかわらず、現在ではメジャーな存在になっています。なぜこんなにも組織開発が日本企業で主役になったのか。どこからきて、そしてこれからどうなっていくのか。今回は、人事の現場目線から組織開発について考えてみます。
認識と実体が伴わない幻想的な存在
組織開発という言葉を聞くと、人事担当者としてなんとも微妙な気持ちになります。というのも日本企業における組織開発は、労務や人材育成などの実務的な取り組みよりも、どちらかというと思想的な言葉を意味していると感じるからです。立教大学の中原淳教授の著書『組織開発の探求』でも、組織開発は「風呂敷だ」と定義されています。中原教授は組織開発を「組織をWorkさせる意図的な取り組み」としたうえで、類似する取り組みを全て包含する言葉であることも指摘しています。
人事担当者としても、これはとても実感に近い定義だと感じます。私自身、いくつかの企業で組織開発に携わってきました。会社の理念の推進や社内ブランディング活動、小集団活動、職場改善活動などです。『組織開発の探求』では、組織開発は「見える化」、「ガチ対話」、「未来づくり」の3つのステップで取り組まれると説明していますが、私が経験したどの取り組みも、同様のステップに沿って行われていました。もちろん意図的にこの3ステップを意識したものもあれば、そうでないものもあります。
つまり、「組織開発と認識しながらやっているもの」と、組織開発に包含されるものであるにもかかわらず「組織開発だと認識していないもの」があったのです。そして同じ人事担当者でも、組織開発への認識はかなり異なります。この認識の違いを示す、面白いエピソードを経験したことがありました。
私がある企業で理念の推進に携わっていた頃、政府関連の広報紙にプロフィールを提出する機会がありました。私がプロフィールに「企業理念の推進による組織開発に取り組んでいる」と記載して上司に承認をもらおうとすると、「あなたは組織開発をやっていないでしょ」と言われたのです。
当時は『組織開発の探求』のような、組織開発を体系的にまとめた書籍が存在せず、あまりメジャーではありませんでした。しかし私は小集団活動に取り組んでいましたし、『組織開発の探求』で定義されるような「見える化」、「ガチ対話」、「未来づくり」の3つのステップに沿った取り組みも行っていました。
後日、社外の研修ベンダーから「御社も組織開発に取り組んでみてはどうでしょうか」と提案を受ける機会があり、上司は「組織開発やってみようか」と私に言ってくれました。しかし、私の中では「今までやってきた取り組みは組織開発ではなかったのか」という疑問がさらに強くなりました。
同様に、社外の方とお話しする機会があった際にもこんなことがありました。過去、小集団活動に熱心に取り組まれていたあるメーカーの人事部の方に、「うちはまだ組織開発をやったことがないですね」と言われたのです。また、ある大手通信会社の方からは「組織開発っていいですよね!」と前のめりで言われたこともあります。
現在は幾分状況が変わりましたが、少なくとも数年前までは、各企業の組織開発は「存在しているのに認識されていない」、「認識され存在しているのに中身が伴っていない」という幻想的な存在でした。