6月19日、定例会見での小池百合子都知事(写真:つのだよしお/アフロ)

(黒木 亮:作家)

 筆者は小池氏の学歴詐称を疑う者であり、その論拠の一つは小池氏のアラビア語の能力である。

 その検証作業として、2年前に文春オンラインで発表した「初検証・これが小池百合子のアラビア語の実態だ」(https://bunshun.jp/articles/-/7909)という記事の中で小池氏がアラビア語を話している動画を用いて分析した。今年1月にもJBpressにて「徹底研究!小池百合子「カイロ大卒」の真偽(1)お使いレベルのアラビア語」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/58847)の中で、別の動画を使って検証した。

 検証の結果は、小池氏は、カイロ留学時代からの経過年数を考慮したとしても、アラビア語による大学レベルの教育について行けたとは考えられないというものだった。

 ところが6月10日になって、アラビア語通訳者の新谷恵司氏が、筆者の記事に対する反論を発表した(「小池都知事のアラビア語力をどう評価したらいいのかわからない方へ」(https://note.com/jaber/n/n5f60bf9ac523))。

 この反論文について、その後あるネットニュースが新谷氏にメールで取材し、これを引用する記事を掲載したり、さらにその記事がヤフーニュースに転載されたりして、少々拡散しているようだ。

 新谷氏の内容を読んでみると、筆者の信用問題にかかわる部分もあった。そこで、あらためて筆者の考えを述べたい。

事実とは言い難い「反論」の数々

 まず指摘したいのは、新谷氏は小池氏関連の通訳を引き受け、金を稼いでいる「業者」であるということだ。小池氏とは利害が一致しており、以前も自身のツイッターで「小池閣下の当選を祈願して〇〇断ちをした」「閣下のアラビア語に疑問を呈する輩に、通訳者として閣下のアラビア語は素晴らしいと言ったら、けっ、おぼえていやがれと言って退散した」といったツイートをしていたので、眉をひそめたことがある。今回の記事でも、小池氏のアラビア語を持ち上げることで歓心を買い、自己の利益に結びつけようという意図が感じられる。

 新谷氏は記事の冒頭で、「私は、政治家小池百合子に期待をしていますが、そのことが、同氏のアラビア語能力についての私のこの評価に影響を与えているということはありません」と予防的に述べているが、上記事情にかんがみ、筆者には到底そうは思えない。

 また彼が引用する文春オンラインの筆者の記事は2年前のものであり、都知事選の直前になって、突然このような指摘をしてきたのは、特別な意図があってのことと考えざるを得ない。新谷氏と筆者は35年前のカイロ留学時代以来の付き合いがあり、年に1、2回は電話やメールをする間柄なので、筆者の指摘が違うと思うのなら、まずは筆者に直接連絡してくるのが普通である。

 新谷氏は、自身の記事の中で、小池氏がフスハー(正則アラビア語、文語)ができないことを擁護している。しかし、カイロ大学の教科書はフスハーで書いてあり、試験の答案もフスハーで書く。4年間アラビア語で勉強し、教科書を読み、毎年論文式の試験も突破して卒業したのなら、フスハーで話せないことはあり得ない。英語でも同様だが、普段その外国語で話す環境になくても、その言語で文献を読んだり、文章を書いたりしていれば、それとほぼ同じ水準で話すことができる。学者、研究者などが英語を話すと、発音はあまり上手ではなく、ネイティブのような気の利いた言い回しもしないが、文献に書いてあるような知的水準の内容で英語を話すのがその例だ。新谷氏の「博士号を持っていても、まったくフスハーではしゃべれない、という方は普通にいます」という記述に至っては完全に信用できない。