中高年人材の流動化で再活躍のチャンス拡大

 皮肉といえばもう一つ、政府が主導する「70歳定年法」の導入もこうした流れを助長していると考えられる。雇用延長は、大企業にとって固定費負担が大幅に膨らむリスクとなるからだ。割り増し分を上乗せしても、業績堅調のうちに希望・早期退職を進めるのが得策と判断する企業が相次いでも不思議ではない。

 5年後の2025年には労働者人口の6割が45歳以上になる。ボリュームが大きいため、すでに大企業では役職につけないまま組織内に滞留する「ヒラ中高年」がこれまで以上に増えている。定年後研究所とニッセイ基礎研究所の共同研究(※3)によると、50歳代の社員は年齢を事由とした配置転換や出向、役職定年を機に仕事へのモチベーションが著しく低下する傾向があり、これによる経済的な損失は年間1.5兆円にものぼる。個人にとっても、企業にとっても、日本社会全体にとってもきわめて不幸なことだ。

 一方で近年は、中高年人材の転職市場も広がりつつある。総務省の労働力調査(※4)によると、2019年の転職者数は351万人で9年連続の増加。そのうち45歳以上は129万人にのぼり、2015年からの4年間で3割も増えた。経験豊富な中高年は、とくに即戦力として中小企業からの需要が高い。むしろ「黒字リストラ」拡大が契機となって人材の流動化が進めば、中高年層の再活躍やキャリア開発の機会もさらに増えていくのではないか。

 成否のカギを握るのは、もちろん働き手自身だ。中高年になっても経験や実績に胡坐をかくことなく、つねに学び直し、スキルの更新やネットワークの拡充に努める姿勢が求められる。

※3 50代から定年後にかけたシニア人材の活性化へ:定年後研究所
※4 労働力調査(詳細集計) 2019年(令和元年)平均結果:総務省統計局

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HRプロ編集部

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