今後の世界経済を考えると、中国、インド、ASEAN(東南アジア諸国連合)など新興国の成長市場が、多くの企業にとってますます重要な意味を持ってくるであろう。しかしながら、新興国での日本企業の販売は、必ずしも順調に拡大しているわけではない。これら新興国は成長しているとは言っても、いまだ1人当たりのGDPは低い。そのため、高額商品を簡単に買える購買能力は備わっていない。
そのような新興市場でよく聞く日本企業の評判は、「日本製品の品質は良いかもしれないが、価格が高すぎて買えない」というものである。
実際、中国で液晶テレビなどを販売する店を見ると、日本製品と韓国製品、中国製品の間に価格差があるのが現実である。その価格差も1.5倍とかせいぜい2倍程度なら、消費者の選択肢として考慮される。すなわち良い品質のものを手に入れるためには、高い値段を払ってもいいと判断され得るのだが、3倍になると検討外になってしまうことも少なくないだろう。
例えば、2000年頃にベトナム市場に、中国製のオートバイが大量に流入したことがあった。よく知られているように、ベトナム人にとってオートバイは生活の必需品であり、ハノイでもホーチミンでも、町の中はオートバイがあふれ返っている。
年間50万台くらいの市場だったのが、中国製オートバイ(当初は中国で生産して輸出。後に中国設計でベトナム・ノックダウン生産)が大量に売れ、200万台という4倍の市場規模に急成長した。ベトナム市場では、元々はホンダが圧倒的なシェアを持っていたが、瞬く間に中国オートバイにシェアを奪われたのである。
その理由は、ホンダのスーパーカブが約2000ドルの価格であったのに対して、中国製は500~700ドルであったからである。ベトナム人の総購買力は変わらなくても、価格が4分の1になったので、市場は4倍になった。
急成長した韓国勢
筆者が中国、ASEAN諸国、インドなどを調査して目立つのが、電機製品ではサムスン電子、LGエレクトロニクスという韓国勢の伸張である。
ASEANの家電市場は、元々は日本製品が圧倒的に強かった。インド市場でも、先に参入して足場を築いていたのは日本企業だった。だが、韓国勢は1997年のIMF(国際通貨基金)支援以降の経済再生過程でインド市場に参入し、あっという間に市場を席巻した。彼らは、なぜこれだけ短期間でシェアを伸ばすことができたのであろうか。
まず第1は、広告宣伝に大量の資源を投入したことにある。成長する新興市場では、広告宣伝が、ブランド認知を高めるために効果的である。新興市場ではまず消費者にその存在を知ってもらうことが常道である。
テレビ宣伝だけではなく、大通りや地下鉄などに目立つ看板を立てたりして、そのブランドを強くアピールしている。さらに、現地に根付いた韓国人マネジャーを育成して販売を強化したことも重要な点である。