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(尾藤 克之:コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員)

 筆者は、30歳代の頃、外資系コンサルティング会社に所属していました。世界50カ国で展開しているグローバル企業でしたが、そのコンサル企業は「ハーバード流交渉術」で著名な、ロジャー・フィッシャー(ハーバード・ロー・スクールの教授)のネゴシエーションスキルをベースにしたトレーニングに特徴がありました。

「ハーバード流交渉術」は、交渉を通してビジネスの価値を高めて信頼関係を築くことを目的にしたプログラムです。「原則立脚型交渉」という、交渉者の利害を満たす合意、満足できる合意に達するための交渉戦術を学んでいきます。

「原則立脚型交渉術」とはなにか

「原則立脚型交渉術」には4つの原則が存在します。1つ目が、交渉に入る前に、人と問題を分けて考えることです。2つ目が、各々の立場ではなく利害に焦点を合わせることです。3つ目が、解決策は複数存在し、双方に有利な選択肢を考え出すこと。4つ目が、結論は客観的事実から導き出されることです。

 交渉の場では、自分の主張やメリットを強引に押し付けてもうまくいかないものです。「原則立脚型交渉術」では、最初に人と問題を分けて考えて双方の利害に焦点を合わせていきます。

 ここにある姉妹がいたとしましょう。姉妹は1つのカボチャをめぐって言い争いをしています。しかし、双方に聞いてみると意外なことがわかりました。姉はカボチャの実が欲しかったのです。パンプキンケーキをつくるためでした。妹はタネが欲しかったのです。ペット用の餌に使いたいと考えていました。お互いの利害を付き合わせることで問題は解決しました。

 つぎに、姉はパンプキンケーキを調理しました。二人とも、パンプキンケーキが大好物なのでケーキを公平にわけなければいけません。公平にわけるには、1人が切って、もう1人に選択権を与えることで文句が出にくくなります。

「原則立脚型交渉術」は、ビジネスやプライベートのあらゆる場面で使えます。交渉の相手は敵対者ではありません。問題の相互解決者でありパートナーなのです。仕事で交渉力の強い人は、そのようにとらえているはずです。

 自分の主張やメリットを強引に押し付けることは、相手から奪うことと同じです。そのときは成功したように見えても決して関係性は長続きしません。これは政治の場面を参考にするとわかりやすいと思います。

 政治動向が大きく変わる政局になると、敵対していた同士が歩調を合わせるようになったり、政党同士が合併することがあります。これはお互いの利益を考えての行動ですが、必要以上の禍根を残していないからできる芸当なのです。