感染症の流行は、さまざまな形で経済にマイナスの影響を与えてしまいます。中国で見つかった新型コロナウイルスへの不安の高まりを受けて、今回はパンデミックが経済に与える影響に関するメカニズムを解説します。
パンデミックとは
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2019年12月31日、WHO中国事務所は、中国湖北省武漢市で検出された病因不明の肺炎症例(原因不明)について報告を受けたと発表しました。
その後の中国当局の調査により、武漢で肺炎にかかった入院患者から発見されたコロナウイルスは従来のSARSなどとは異なる新型コロナウイルスであることが判明しています。
当初感染力は高くないとみられていたものの、人から人への感染が確認されるなど、やや深刻度が増してきています。
こうした新型の感染症は人に免疫がないため、環境次第では爆発的に感染が広がる可能性があります。
感染症が世界規模で爆発的に流行することを「パンデミック」といい、新型インフルエンザを始め世界は過去何度かパンデミックの脅威にさらされてきました。
パンデミックは古くは14世紀のペストに始まり19世紀のコレラ、さらに20世紀にはいってからは新型インフルエンザが数十年に一度の頻度でパンデミックを起こしてきました。
最近では2009年の新型インフルエンザ(H1N1)の記憶が新しいです。
また、パンデミックには至らなかったものの、今回のコロナウイルスと同様のケースに2003年に香港で発生したSARSや2015年の韓国におけるMERSがあります。
パンデミックと経済
世界銀行の試算によれば、このようなパンデミックが経済に与える影響は先進国でGDPの0.4%程度、新興国などで2%程度となり、全世界レベルでは年間で約1%程度の押し下げ要因となるとされています。(「From panic and neglect to investing in health security」 The World Bank)
パンデミックの経済被害の特徴は、実際に人的被害が広がるかどうかより、パンデミックの発生に備えた経済活動の自粛による、間接的な停滞の影響が大きいところにあります。
上記の試算によれば感染者による直接的な被害は想定金額の39%にすぎず、経済損失の大部分は健康な人々の経済活動の停止に伴うものであるとされています。
2009年のインフルエンザパニック
例えば2009年の新型インフルエンザの際はWHOにおいて4月に発症が確認され、6月にはパンデミック宣言が出されていますが、日本政府においては4月27日のフェーズ4を受け「新型インフルエンザの発生」を宣言し、内閣総理大臣を本部長とする全閣僚参加の「新型インフルエンザ対策本部」を設置しました。
当初は罹患者の強制隔離や接触者に対する外出自粛、学校などの休業、集会・外出の自粛要請、場合によっては人の移動制限も含めた検討を行う、という厳しい行動計画が発表されました。
証券取引所の閉鎖が噂されたり、罹患者が確認された飛行機に同乗していた乗客などが検疫法で停留されるなど、4月から5月に掛けては金融市場も社会活動もややパニック的な動きとなったのです。
その後WHOから社会的活動の自粛を要請しないという発表がなされたことで、我が国においても通常のインフルエンザと同等の扱いとなりましたが、それでも大規模集会が自粛されたり、修学旅行が中止されたりと、人やモノの移動には2009年を通して制限がかかることになったのです。
こうした人やモノの移動の制限は、小売りなどの商業施設の売上を直撃し、旅行者の減少により観光業や航空会社などの経営を悪化させます。
さらに学校や保育施設が閉鎖されることで親の就業に支障が出るといった労働生産性全体への悪影響も小さくないと考えられています。
幸運なことにこの時のインフルエンザ騒動は1年かかることなく終息したため、メキシコなど特定地域を除けば、深刻な経済損失には至らなかったとされていますが、パンデミックというものが経済活動に与える深刻度について、日本社会が初めて認識した事象となりました。
2009年の我が国の対応については過剰であったという意見もありましたが、だからこそ新型インフルエンザでの死者数が他国に比べ少なかったと評価する報告も出ています。現在の日本経済は当時と比べて圧倒的に観光業に対する経済依存度が高くなっていることには留意が必要でしょう。
前掲の世銀の報告書では、パンデミックに対する備えが世界的に不十分であることを警告しています。
経済活動に与えるインパクトの大きさから判断するなら、気候変動に備えた議論と同様の真剣な議論と準備が必要であると指摘しています。
今は未だ、大きな影響が見えてこない今回の新型肺炎問題ではありますが、2009年当時のパニックを思い出しながらリスクシナリオを立てておいたほうがよいかもしれません。