ドルの将来がどうなるという問題が、随所で議論になっている。
この場合、場所としての「随所」は日本を含まず、議論の主としても日本人は数に入っていない。そして「¥」というシンボルは、そんな議論に現れたとしたら既にして日本円のことではない。中国人民元のイニシアルだ。
今年4月に開かれたブレトン・ウッズ会議
ではどこを指して「随所」と言い、だれを称して議論の担い手とするかといえば、それは例えばニューハンプシャー州ブレトン・ウッズ、マウント・ワシントンホテルであり、そこに集まった学者や元政府高官たちである。
4月8日からの足かけ4日、ここでその名も「ブレトン・ウッズ会議」と称する大きな国際会議があった。主催したのはおなじみジョージ・ソロスが5000万ドルからの私財を投じこしらえたINET(Institute for New Economic Thinking)という組織で、有名どころの経済学者をほとんど全部呼び集めたものだ。
ジョン・メイナード・ケインズが投宿し、その妻リディアが踊りの稽古をしたスイートに、今回誰が泊まったかは詳らかにしない。
がドルを基軸通貨とした国際会議を67年前に開いたのと全く同じ空間で、このたびはそのドルを玉座から追い払う青写真がいろいろと論じられた。
国際経済・金融の専門家を集めた参加者リストを見て不在に気づくのは、ピーター・ケネン(Peter Kenen)、ロナルド・マッキノン(Ronald McKinnon) 、そしてロバート・マンデル(Robert Mundell) ぐらいなもの。
日本からの参加者はリチャード・クー氏ただ1人
あとはほぼ網羅的で、さる評に従うと、多くはソロスの息がかかった人々であるらしい。
ちなみに日本から参加しパネルに登壇したのはリチャード・クー氏ただ1人を数えるのみだ。もっともクー氏は通貨論のエキスパートとして出たわけではない。バランスシート不況を説得的に説いた英文著書が、リーマン危機このかた広く読まれたゆえであろう。
これらの人々にとってのドルとは、一言で言って落日・斜陽の通貨である。いまその将来をいかに論じようが、あるいは論じまいが、地位必衰は当然の理(ことわり)とみる点でコンセンサスがある。
先行きの通貨体制とは、彼らの議論が収まるところ、ほぼ2つの見方にまとまってきた。SDRか、多極通貨体制かである。