これら環境・安全性にかかわる株主総会決議案を受け取った企業には、大量の温室効果ガスを排出する電力会社、露天掘りで石炭を採掘する石炭会社、水質汚染が懸念されるフラクチャリング技術で天然ガスを採掘する石油・ガス会社、カナダのオイルサンド開発会社などが含まれます。

資産の中身を精査される時代

 今回の福島第一原子力発電所事故は、原子力発電の環境・人体へのリスクを改めて認識させる事故となりました。

 また、事故のおよぼす東京電力への影響については、現時点ではまだ全容は明らかになっていませんが、先ほど株価を見ていただいたように、一瞬にして会社の時価総額の約80%が消えてしまうほど甚大なものでした。

 メキシコ湾原油流出事故後、2011年の株主総会の環境・安全性に関する決議数が急上昇したことは先に述べましたが、2012年の株主総会では、原子力発電所を所有、運転する電力会社に対して、その安全対策などへの株主総会決議案が提出されることはまず間違いありません。

 電力業界が安全宣言をしていた原子力発電も安全でないことが分かりました。現在、エネルギー業界で環境汚染や安全性を懸念されている技術や事業も、たとえ業界が「安全性に問題なし」と言っても、過去の例からも、それは完全なものではありません。

 今まで以上に、エネルギー会社が所有する資産およびその資産で行っている事業に対して、株主および社会からそのリスクの精査と情報開示、そしてリスクへの対策を求められることになるでしょう。

 エネルギー企業の所有する「資産の質」の問題を露呈させたのが、東京電力福島第一原子力発電所放射能漏洩事故でしたが、一方資産そのものを拡大させるオイルメジャーを中心としたエネルギー会社の「資産拡大」事業戦略へ一石を投じたのが、BPによるメキシコ湾原油流出事故でした。

 後編では、メキシコ湾での原油流出事故が明らかにしたエネルギー会社の資産拡大戦略の限界について分析し、福島、中東とそれぞれ異なった場所で進行中のエネルギー問題が日本のエネルギー政策へ与える影響について考察します。