エスカレートする米中貿易戦争。仮にアメリカが“負ける”ような事態となれば、世界に及ぼす影響は経済分野だけにとどまらない。ここ数年、小康状態を保っている「南シナ海問題」もその1つだ。アメリカの抑止力が効かなくなったとき、東アジア諸国は連携して中国に対抗することができるのだろうか?(JBpress)

(※)本稿は『図解 東アジアの歴史』(三城俊一著、かみゆ歴史編集部編、SBクリエイティブ)の一部を抜粋・再編集したものです。

中国の生命線、南シナ海

【中国の東南アジア進出と「九段線」】  (図版作成/株式会社ウエイド)
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 2013年、フィリピンは、南シナ海における中国との領土紛争に関し、オランダのハーグにある国際仲裁裁判所に提訴しました。2016年7月、仲裁裁判所は中国の主張を退ける判決を出します。しかし、同年に就任したフィリピンのドゥテルテ大統領は、中国との経済協力を重視し、問題を先送りする方針を示しました。

 南シナ海からマラッカ海峡を抜け、インド洋に至るルートは、中東から石油を中国に運ぶ重要なシーレーンであり、大量のエネルギーを必要とする中国の生命線です。

 考えづらいシナリオですが、万一アメリカ海軍がマラッカ海峡を封鎖した場合、中国は貿易やエネルギー面で大打撃となります。「海洋強国」となって国家の利益を確保するため、中国は東シナ海や南シナ海での軍事展開を進めています。

80年代、90年代に本格化

 南シナ海に浮かぶ南沙(スプラトリー)諸島は、約180の島や岩礁からなります。豊かな漁場がある上に石油などの海底資源が豊富であり、中国・台湾・ベトナム・フィリピン・マレーシア・ブルネイが領有権を主張しています。

 紛争が本格化したのは、1982年に国連海洋法条約が採択され(1994年発効)、沿岸国に海洋資源の優先権が認められてからです。中国は南沙諸島だけでなく、1953年に自国で引いた「九段線」の内側すべて権益を主張しており、周辺国の反発を招いています。