INF全廃条約の枠外で核兵器開発進める中国

軍事パレードで行進する中国人民解放軍兵士ら。中国はINF全廃条約の枠外でミサイル開発を進めている(2017年7月30日撮影、資料写真)。(c)STR / AFP〔AFPBB News

 トランプ政権が米露間の軍備制限条約を撤廃する意向を表明している。この条約は「INF条約」(Intermediat-rahge Newclear Forces Treaty)すなわち「中距離核全廃条約」と呼ばれているが、この呼び方は誤解を招きがちである。INF条約が制限している対象兵器を正しく認識していないと、トランプ政権がこのタイミングでINF条約を撤廃しようとしている真意を読み誤ることとなる。

INF条約の本当の中身

 INF条約の正式名称は "Treaty Between the United States of America and the Union of Soviet Socialist Republics on the Elimination of Their Intermediate-Range and Shorter-Range Missiles" である。もともとはアメリカ(レーガン大統領)とソ連(ゴルバチョフ書記長)の間で1987年に締結され、その後ロシアに引き継がれたため、現在は米露間の条約となっている。

 その正式名称の通り、この条約は「中距離核ミサイル(Intermediate Nuclear Missiles)」だけを制限するための条約ではない。核弾頭が搭載されていようが非核弾頭が搭載されていようが、また弾道ミサイルであろうが巡航ミサイルであろうが、中距離ミサイルと短距離ミサイルを制限するための条約である。

 そして、条約が制限しているのは、地上配備型の中距離・短距離ミサイルである。艦艇(水上戦闘艦・潜水艦)や航空機(爆撃機や戦闘攻撃機)から発射されるミサイルは条約の対象とはなっていない。

 INF条約が締結された当時は米ソ冷戦末期である。アメリカにせよソ連にせよ主たる想定戦域はヨーロッパであった。ヨーロッパで戦闘が発生した場合、奇襲攻撃に用いられ、かつ防御手段が極めて限定的であった中距離ミサイルは、とりわけ核弾頭が装着されている場合には(双方ともに)最大の脅威になると考えられていた。そのため、米国もソ連もこのような奇襲手段を互いに保持しないことには異論がなかったのである。