家康はなぜ江戸城の天守を純白にしたのか? それは戦国時代を生き抜いた家康の、人生最後のリセットに対する決意だった

 あったかもしれない人生――。これまで続いてきた人生を見つめ直し、いったんリセットしたくなるときがある。新しい人生を始めるのは勇気がいるし、不安もある。でも、せっかくなら違った人生を経験するのもいいんじゃないか。

 前回「人生をリセットしたいときに読む歴史・時代小説(1)――否応なく訪れる転機を上手にチャンスに変える本4選」では、自ら生き方を選べない社会制度の中、突然の転機に向き合った人々の小説を紹介した。第2弾となる今回は、よりダイレクトに、人生はリセット可能だと謳いあげている歴史・時代小説を紹介する。新たな人生を考えてみるものの、一歩を踏み出す勇気がない──そんなとき力強く背中を押してくれるに違いない。

今村翔吾 「羽州ぼろ鳶組」シリーズ

 出羽新庄藩・江戸屋敷が抱える大名火消しの活躍を描く、文庫書き下ろしのシリーズである。2017年3月に1巻『火喰鳥』が出るなりたちまち熱い支持を受け、4カ月ごとのハイペースで刊行が進んでいる。2018年4月現在の最新刊は第4巻『鬼煙管』だ。

 主人公の松永源吾は優秀な武家火消しだったが、とある事件をきっかけに今は浪人暮らし。そんな彼のところに出羽新庄藩江戸屋敷からスカウトがやってくる。貧乏ゆえ壊滅状態にある新庄藩の火消し組織を立て直してほしい、というのだ。その話を受けた源吾は、まずは人集めから始める。

 そこで彼が選んだメンバーが面白い。屋根の上で纏(まとい)を振る役には女で問題を起こして逃げていたイケメン軽業師を。柱を叩いて家を壊す役にはケガで廃業を考えていた関取を。異人とのハーフゆえに見た目で差別されてきた学者を、その知恵に惚れ込んで参謀に。ひとり、またひとりと、畑違いの職場から人生をリセットすべくメンバーが集まってくるのだ。その様子、まるで南総里見八犬伝のごとし。火消しには素人の彼らが源吾の指示のもと、それまでの職場で培った知恵と経験で火事に立ち向かう姿の、なんとカッコいいことか!

 江戸の火消しがどのようなシステムだったか、どのような設備と工夫で火を消していたかといった、情報小説としても実に面白い。そこに、実際に江戸を襲った大火や、その背後でうごめくお家騒動の陰謀などもからんで、読み出したら止まらないノンストップの火消しエンターテインメントになっている。普段はライバルの町火消しやよその武家火消したちもいざ火事となれば協力して、ひとりの死人も出さずに火を消してみせるというプロのプライドに感動すること間違いなし。心が熱くたぎって、むしょうにやる気が湧いてくるシリーズだ。