物流ニーズが減少する中、物流企業は事業の転換を迫られている(写真はイメージ)

デジタル化によりサプライチェーンが消失する?

 デジタル化は人の流れだけでなく、モノの流れも大きく変えようとしている。最も大きな変化と言えるのが、大量生産体制のコストをある程度維持しつつ、顧客の要求の多様化に対応する「マス・カスタマイゼーション」への移行であろう。

 このことを示唆する例として、アディダスの取り組みが挙げられる。アディダスは2017年7月にドイツで、3Dプリンターやロボットを活用した最新の工場である「スピードファクトリー(Speedfactory)」を立ち上げた。

 これまでフットウエアの製造プロセスは労働集約的であり、人件費の安いアジアに工場が設置されていた。だが、スピードファクトリーはロンドン、パリ、ロサンゼルス、ニューヨーク、東京、上海などの主要な消費地の近くに設置される予定だという。

 スピードファクトリーは大半の工程がロボットにより自動化されており、従来の工場より人件費の割合を大幅に縮小できる。だからこそ、人件費が安い場所ではなく、顧客により早く商品を届けられ、かつ物流コストも低減できる消費地の近くへの立地が可能になるというわけだ。将来的にはこの工場がマス・カスタマイゼーションにも対応すると考えられる。

 このように、製造プロセスの自動化と、それにより実現されるマス・カスタマイゼーションへの移行に伴い、原料や人件費などの要因で工場の立地が決定されるのではなく、多用なニーズへの対応力・即能性を意識して消費地の近くへの立地が進むようになる。その結果、靴やアパレルのような大量消費財でも、これまでと比べモノが移動する距離は大幅に短くなる。将来的には「サプライチェーンが消失する」とまではいかないものの、製造工程における物流ニーズは大きく減少するだろう。

 また、多くの荷主にとって、物流費の削減は大きな課題である。荷主はデジタル化を背景に、サプライチェーンの各段階におけるデジタルデータの収集・解析を通して、サプライチェーンのコスト低減を進めている。物流企業はこれに応えるように、バイヤーズ・コンソリデーションなどの物流プロセスの統合、物流倉庫での作業の省力化・自動化などを進めている。将来的には、トラックや船舶などの輸送の自動化も進む見込みである。