ロシアウォッチャーなら一度は聞いたことのある神話
筆者に限らず日々経済をウォッチしている方々は、石油にまつわる数々の「神話」をしょっちゅう耳にされているのではないだろうか。
筆者はそれらをあまり知らない方だと思うが、それでも「米国によるイラク攻撃は、イラクが石油のドル建て取引離脱を狙ったから」「日本で高度成長期が終わったのは石油ショックの影響 」といった程度の神話は知っている。
ほかにも「石油の世紀」という書籍や、「石油の一滴は血の一滴」といった言葉もあり、いずれも食料と並んで人命を左右するほどの石油という物質の存在感の大きさ、神々しさを感じさせる。
そして筆者を含むロシアウォッチャーが何度も耳にしてきたのが、「ソ連解体は、米国が主導した油価低下による」という神話である。
実はつい先日もこの神話をあるウエブメディアで見かけた。
もう30年も前の話ではあるが、20世紀最大の事件であるソ連解体にかかわる話であり、我々の歴史認識にも大きな影響を与える問題だ。
そこで本稿では、この「ソ連解体は、米国が主導した油価低下による」説について、筆者の考えを述べたい。
1985年12月、OPECの「シェア確保」宣言がきっかけ
最初に事実確認を行う。図表1は20世紀末期におけるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)価格(月次)の推移だが、1985年12月に価格が急落したことが分かる。