ドナルド・トランプ米大統領は、米国時間の12月18日、大統領就任以来初めての国家安全保障戦略(NSS: National Security Strategy)を発表した。
トランプ政権はこれまで、戦略や政策と呼べるものを何も発表してこなかっただけに、NSSの中身が注目されたが、妥当だと評価できる点と不適切だと評価をせざるを得ない点の両方が混在している。
トランプ大統領のNSSを一言で表現すると、「アメリカ・ファースト国家安全保障戦略」だ。NSSでは実際にそのように表現している。
NSSの根底にあるのは国益であり、国益は本来的に自国最優先の特徴があり、その意味でアメリカ・ファーストは本音として当然である。
しかし、その本音むき出しのアメリカ・ファーストをNSSの頭に冠して「アメリカ・ファースト国家安全保障戦略」と表現するのはあまりにも品がない。この品のなさが内容的に妥当な要素を含むNSSの価値を下げている。
このNSSから「アメリカ・ファースト」という言葉をすべて削除すると、国家安全保障会議(NSC)のハーバード・レイモンド・マクマスター安全保障担当大統領補佐官が本当に書きたかったNSSになるのではないか。
その意味で、「アメリカ・ファースト国家安全保障戦略」は、文字通りにトランプ大統領のNSSである。
一方、日本の一部メディアは、NSSが重視する「力による平和(peace through strength)」を軍事偏重の軍拡路線だと批判しているが、中国とロシアの脅威を適切に評価しないピント外れの批判だ。
力による平和は、バラク・オバマ前大統領が世界の諸問題の解決に際して、力を背景とした外交を放棄し、まず「軍事行動は行わない」と宣言した後に外交による解決を図り、数々の失敗を犯したことに対するアンチテーゼなのだ。
大国である中国が南シナ海に人工島を建設しその軍事拠点化を進めたり、ロシアが軍事力をもってクリミアを併合し、2016年米国大統領選挙やフランスやドイツでの選挙に介入するなど、両国は世界秩序を破壊する挑発的行動を行っている。
トランプ政権の「中国やロシアとの大国間の競争」への言及は、オバマ政権時代のスーザン・ライス国家安全保障担当大統領補佐官が「米国と中国との大国間の競争」という表現を国防省が使用することにクレームをつけたり、中国に対する過度な関与政策を採用し、結果として南シナ海の人工島建設を許してしまったことへの反省に立っている。
「中国やロシアとの大国間の競争」を意識した「力による平和」を重視したNSSはその厳しい現実への適切な対応である。このことを理解しないでNSSを批判するのは不適切だ。
また、このNSSを読んでいると、ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授が、アメリカ・ファーストを掲げるトランプ大統領の誕生を契機として警告している、既存の大国(米国)と台頭する大国(中国)が陥る可能性のある「キンドルバーガーの罠」について触れざるを得ないので、最後に紹介する。