大石内蔵助は、浅野内匠頭が松の廊下で刃傷沙汰を起こさなければ、赤穂藩でのんびりとした人生を歩んで、歴史の表舞台に登場しなかったに違いない。

 廊下の一件があったから、内蔵助は多くの家臣の生と死を見つめながら命を張って生きられたんだ。

 忠義に厚く、志を維持して人を束ね、江戸でも人に交わり人情に溶け込み、幕府の兆候や機運の流れ、吉良邸の動静を冷静に見極めて行動する。内蔵助は中小企業の社長になっても大成していただろうな、きっと。

 多くの人と交流を重ね、自分の会社や業界だけではなく、日本、世界で起きている状況を見渡して行動することができれば、たいていのことはうまくいくはずだ。

 世の中は絶えず動いているから、新製品が世に出れば、その一方で消える製品も出てくる。仮に一世風靡した製品でも、より安価なもの、優れたものが出てくれば淘汰されていく。だから経営者は「情報」を常に更新し続けなければ、時代に取り残されてしまう。

会釈する者に情報は集まってくる

 挨拶や愛想というのは些細なことに見えるかもしれないが、仕事にとって大切な情報を呼び寄せてくれる。

 職人というのは、年中、猫の額のような場所で機械を相手にしているから、人と話す時間があまり多くない。

 だから「会釈など無用」という了見では、下働きのうちはいいが、会社の経営者ともなると務まらない。役に立つ話は挨拶、愛想から始まる。「挨拶より円札(銭)」というが、円札は挨拶から生まれるんだな。

 仕事の話の中には、次の時代を席巻するかもしれない新しい製品や、次に興る産業の兆候とか、ヒントっていうのが必ずどこかにあるものだ。そのカギを見定めることができれば、新たなビジネスチャンスにつながる。そのためには、いつも情報の流れる位置にいる必要があるってことだ。