前回、「報道と検察の共存共栄モデル」がリクルート事件以来21年目(端緒の報道から計算すると22年目)で破綻した、という話を書いた。
その破綻をもたらしたのは、「村木厚子・元厚生労働省局長の冤罪・無罪判決事件」だ。
この事件の始まりが「郵便制度不正利用事件」と呼ばれる朝日新聞の調査報道(2008年10月6日付朝刊1面)だったことを忘れてはならない。
これは朝日新聞社自身がそう言っているので参考にしてほしい。これから朝日新聞社に入ろうという若者たちに向けて、「郵便制度の不正利用の実態を特報」と「会社案内2010年版」で誇らしげに謳っている。
冤罪がはっきりしたうえ、検察の証拠偽造まで露呈した今、いくら何でもこんな恥ずかしい「自慢話」は削除しただろうと思ったら、インターネットにまだあった。
「巨悪」の掃除はいつも微罪逮捕から
「偽の障害者団体を名乗って、一通120円の郵便を8円で出していた連中がいました。何とけしからかんことでしょう」というのがこの「調査報道」のスジだ。私がこの第一報を朝刊で読んだときの感想は「まあ、けしからんことは確かにそうだが、何てチンケな事件だろう。この事件が一面トップとは、朝日の調査報道もセコくなったものだ」だった。
郵便料金のごまかしは最高刑罰金30万円である(郵便法84条)。こんなチンケな法律違反で高級官僚や政治家を逮捕できるわけがない。東京地検特捜部も動かないだろう。リクルート事件では竹下内閣を倒したことを思うと、何とも小粒になったものだ、などなど。
しかし、それでもまだ発展する可能性はあると思った。昔から、こうした「微罪」を突破口にして高級官僚や政治家を逮捕して家宅捜索をかけ、もっと大きな罪(贈収賄が典型)に「登って」いくというのが特捜検察の古典的な捜査手法だったからだ。
田中角栄元首相だって、ロッキード事件で最初に逮捕されたのは「外為法」違反だった。これはれっきとした「微罪逮捕」だし「別件逮捕」だ。しかし、政治家や官僚など「巨悪」を掃除するためなら目をつぶってもらえたのだ。
朝日は初めからストーリーを読んでいた?
「郵便法違反という罪状はチンケなのに、1面トップで報道している」という事実は、私のように新聞社にいた人間にはピンとくることがいくつかある。
(1)記者はこの事件をすでに検察か警察に「当てて」いる。場合によってはかなり情報交換しているかもしれない。少なくとも捜査当局は事件化に興味を示している。(2)局長クラス以上の高級官僚か、国会議員に「登っていける」感触を、記者も捜査当局も持っている。