11月23日午後、黄海上の韓国領・延坪島(ヨンピョンド)に北朝鮮から数十発の砲弾が打ち込まれた。

 これまでも、黄海上で南北の軍艦同士が銃撃戦を繰り広げたことは何度もあった。しかし、北朝鮮が一般住民の暮らす韓国領土に向けて攻撃を行ったのは1953年の朝鮮戦争休戦後初めてで、朝鮮半島情勢は一気に緊迫の度合いを強めている。

 尖閣諸島の帰属を巡る日本と中国の対立といい、極東アジアの政治情勢は今後さらに不安定化していきそうな様相を呈している。

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 それにしても、韓国と北朝鮮の一触即発の関係を見るにつけ、心配になるのは日本政府の対応力と国内世論の動向である。

 もしも尖閣諸島の近海で、日本の自衛隊と中国海軍の間で銃撃戦が行われた日には、日本国内は蜂の巣を突いたような騒ぎになるだろう。自衛隊員に死傷者が出たりすれば、興奮した人々が暴徒化して、中国大使館に押しかけないとも限らない。

 それだけでは収まらず、中国に対抗して日本も核武装すべきだと主張したり、憲法9条を改定して交戦権を認めるべきだと主張する過激な勢力が国政の場に台頭してくる可能性もある。

 しかし、たとえ憲法9条が改定されて、自衛隊が表向きの存在となったとしても、それで不測の事態に際して随時武力が行使できるようになるのかといえば、とてもそうはいかないのは、北朝鮮の挑発に対する韓国の対応を見ればよく分かる。

 今年3月には韓国軍の哨戒艦が沈没して、実に46人もの兵士が死亡した。韓国は北朝鮮の魚雷攻撃によるものだと断定し、日本も米国も韓国の見解を支持したが、それで北朝鮮に対して本格的な報復攻撃が行えるかとなれば、やはりそれはできないのである。

 一度戦端の火蓋が切られてしまえば、戦闘の結末がどこへ行き着くかは誰にも予想がつかない。

 ことに北朝鮮の核兵器保有が現実味を帯びている状況では、「やられたらやりかえせ」的な報復行為から戦闘が一気に拡大し、結果的に数十万人が死傷するような最悪の事態に陥る危険性もはらんでいる。