なぜ福祉大国で?
それにしても、欧州で「反イスラム」を声高に掲げるポピュリズム政党が台頭するのは、オランダやフランス、ドイツのほか、デンマークやフィンランド、スウェーデンなど日本がお手本としてきた福祉大国ばかり。同じポピュリズム政党でも、イタリアの「五つ星運動」やスペインの「ポデモス」は緊縮反対を掲げながら、イスラム移民排斥やEU離脱にはあまり熱心ではない。中東からの難民流入の最前線なのに、である。
アムステルダム大のシューマッハー准教授は「豊かな人ほど、変化を恐れる。自国の福祉や文化に満足しているからこそ、人権や個人の自由を尊ぶ欧州の価値観がイスラム台頭で脅かされている、という不安が強いのだろう」と指摘する。
オランダ総選挙は、ポピュリズム政党の勢いが、主要政党が総力を挙げて対抗しなければ止められないほど強いことを示した。既成政党は生き残りのため、ポピュリストに負けないほど強く「国益優先」を打ち出し、厳しい移民政策をとるようになるだろう。欧州政治や外交は当面、ポピュリズムという大きな流れの中で動くしかない。

三井美奈
1967(昭和42)年、奈良県生まれ。産経新聞外信部編集委員。一橋大学社会学部卒。読売新聞ブリュッセル支局員、エルサレム支局長、ハーバード大学日米関係プログラム客員研究員などを経て、2011~15年パリ支局長。2016年10月から現職。著書に『安楽死のできる国』『イスラエル―ユダヤパワーの源泉―』『イスラム化するヨーロッパ』など。
◎新潮社フォーサイトの関連記事
・対ロシア融和姿勢「転換」へと押し戻される「トランプ大統領」
・「トランプ政権誕生」に揺れたEU首脳会議:BREXITとメイ英首相の悲哀
・金融市場が注目しだした「Frexit」の可能性