今年9月26日、韓国空軍OB会(韓国戦友会)との交流行事の一環として、韓国を訪問した。韓国戦友会とは、隔年毎相互に訪問を実施しており、来年は韓国側が日本を訪れるという具合に、緊密な関係にある。
今回の韓国訪問は、「哨戒艦天安」「板門店」「韓国空軍基地」の研修、さらに「国軍の日」における「朝鮮戦争60周年行事」に参加するなど、北東アジアの緊張を身近に感ずる貴重な旅行となった。
訪韓2日目、ソウルから南南西約60キロに位置する平澤(ビョンテク)海軍基地を訪問、陸揚げされた哨戒艦「天安」の痛ましい姿に接した。破壊された部位等を細部にわたり観察しながら、沈没の原因等について懇切な説明を受けた。
この貴重な体験を基に、哨戒艦「天安」沈没の真相、かつ沈没を巡る国際社会の動きや反応について概観してみたい。
1 事件の推移
(1)2010年3月26日午後9時22分、「天安」は朝鮮半島西方公海上の北方限界線(NLL)付近(白翎島西南方)で、船体後方が爆発し、船体が2つに切断され後半部分は数分後、前半部分は3時間後に沈没、乗組員104人中46人が行方不明になった。
事件が起きた北方限界線(NLL)海域は、朝鮮戦争休戦協定直後の1953年夏に設定され、南北の武力衝突が繰り返されてきた。
今回の事件も、昨年11月に起きた大青海戦で韓国側が北朝鮮艦艇に甚大な被害を与えた事件に対する周到な報復との見方が強い。
(2)4月15日、切断された船体後半部分が引き揚げられ、行方不明になっていた44人のうち36人の遺体が収容された。船体には外部から爆発による衝撃を受けた痕跡が残されており、魚雷や機雷によるものとの見方が強まった。
韓国政府は慎重を期するため国内10専門機関の専門家25人、軍事専門家22人、国会推薦専門委員3人、米・豪・英・スウェーデンの4カ国の専門家24人からなる軍・民の合同調査団を結成し爆発原因の本格的な調査を開始した。
(3)4月24日には船体の残り前半部分が引き揚げられ、これを調べた合同調査団は内部爆発の可能性はなく、艦から近い水中での爆発により艦体が切断し、沈没した可能性が高いという見解を示した。
(4)5月20日、合同調査団は、「天安」は北朝鮮による魚雷の攻撃を受けて沈没したと断定する調査結果を発表した。
(5)5月24日、韓国の李明博大統領は、韓国海軍所属の哨戒艦「天安」が北朝鮮の魚雷によって沈没した事件を北朝鮮の軍事挑発としたうえで、「北朝鮮は自らの行為に相応した対価を支払うことになる」との談話を発表した。
談話の中で具体的に、北朝鮮の責任を追及するため、北朝鮮の船舶が韓国の海域および海上交通路を利用することを禁じた。
また、南北間交易を中止する措置を取ること、韓国の領海と領空、そして領土を武力で侵略する場合、即時に自衛権を発動するほか、国連安全保障理事会(以下国連安保理)への提起、および国際社会とともに北朝鮮の責任を追及するとしたうえで、韓国軍の戦力および米韓防衛体制を一層強化することを述べた。