米国は中間選挙直前、尖閣列島を日米安保条約の対象範囲だと再三再四明確にした。
選挙はオバマ大統領から政治力を奪う結果をもたらしたものの、中国に対するワシントンの警戒姿勢はにわかに変わるまい。
日中角逐が深まる中、同盟国日本の助太刀をしてくれたかに見てこれを歓迎、情緒のレベルで有難がる風潮が我が国世論にはある。
しかし米国の動機がこの際も常と同様、自国利益の保全を第一に狙ったものでなかったはずはない。
琉球弧は、中国海軍の大洋進出を抑止する天然要害の1つだ。尖閣はその最前線に当たる。これの突破を既成事実とされたのでは、在沖縄米軍、第7艦隊艦船など米軍前方展開勢力がより大きな脅威にさらされる。
米国は尖閣との関わりを明確化し中国に伝えることで、これへの予防線を張ったと見るのが本筋だろう。
豪州発の新しいアジア像が世界で注目されている
いま豪州で、練達の戦略家が投じた一石が波紋を呼んでいる。尖閣事件とも、日本の将来とも少なからず関わりのある議論だが、我が国メディアはまだ十分関心を寄せていない。
論争を喚起したのはヒュー・ホワイト(Hugh White)という人物だ。青白きインテリ・象牙の塔の主ならともかく一時豪州政権で要職に就いた経験もある政策家にして述べた見解は、すぐさま甲論乙駁を生んだ。
まとまって述べた論文やそのサマリーが盛んな議論を豪州に巻き起こしたのみならず、筆者が外交問題評議会などで確かめたところ、9月末時点でワシントンでも既に関心の的となっていた。