沖縄県の尖閣諸島沖で起きた中国漁船と海上保安庁巡視船との衝突事件を発端とする中国国内の反日デモは、10月末になっても収まる気配を見せていない。

 私は1965年生まれなので、いわゆる高度経済成長の中で育ってきた。物心ついた頃にはベトナム戦争も終決していたし、米ソの冷戦下にあっても、超大国同士の核戦争によって人類が滅亡するという恐怖に本気で怯えたことはない。

 それが今回の中国国民による反日感情の噴出に関しては、杞憂であると承知しつつも、いつか「領土」を巡って日中両国が戦火を交えるのではないかとの不安まで覚える始末で、どうにも弱っている。

 先日も、中国内陸部で起きたデモの参加者が、「日本人は傲慢だよ」とカメラに向かってヒステリックに語る映像を見て、「おまえは何人の日本人を知っているんだ」と怒りが湧いてしまい、それ以来なるべく中国関連のニュースは見ないようにしている。

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 このコラムで話題にしたことはなかったが、私は4年前に中国作家協会の招きで、かの国を訪れた。

 日本作家訪中団の一員として、4人の作家と共に北京・延安・西安・上海の各都市に合わせて2週間ほど滞在し、中国の作家たちと様々に交流した。

 72年の日中国交回復以前から、1年おきに両国の作家たちが行き来して親交を深めることを目的に行われているもので、昨年は中国の作家たちが日本を訪れた。

 私はそれまで、中国にほとんど関心を持っていなかった。学生時代には、フィリピンのルソン島とネグロス島に3週間滞在し、またその後に得たGASEI南米研修基金による奨学金を得て、1年間中南米各国をうろつき回った。

 機会があれば、その頃の経験も書いてみたいが、中国については団長を務めた作家から同行を求められたもので、有り体に言えば、断り方が分からずに仰せのまま付き従ったわけである。

 そうした事情で訪れたせいもあるのだろうが、正直に言って、私は中国にあまり親しみを覚えなかった。北京オリンピックと上海万博を控えて、どちらの都市も諸外国からの来訪者に備えて大規模な模様替えをしている真っ最中で、イメージしていた大陸的な落ち着きとは程遠い雰囲気だった。