筆者は昨年10月23日掲載の『「20年バブル」崩壊』で、米国の過剰消費構造崩壊という歴史的な変化に直面した市場参加者が念頭に置くべき「6つのポイント」を提示し、その後も随時、長期金利低下・イールドカーブのブルフラット化や円高(ないし円安方向への戻りの弱さ)を予想する根拠として用いてきた。それから3カ月ほどが経過しているので、このあたりで「中間レビュー」を簡単に試みておきたい。

(1)グローバリゼーションと証券化を通じて世界中に信用リスクが拡散しており、「集中治療」が困難。金融危機・信用不安は拡大・深化・長期化せざるを得ない。

信用不安対応で米国よりも早いタイミングで大胆な施策を打ち出すことに努めてきた英国だったが、19日に金融機関救済策の第2弾発表に追い込まれた。政策対応一巡さえも、まだ実現していない状況。このところ欧州の金融機関の傷の深さが再認識されており、19日の外為市場では英ポンドやユーロが売り込まれた。

(2)実体経済・マネーの両面で世界経済が密接にリンクしているため、「デカップリング論」は完全に否定された。米国経済に連動して世界経済は「共倒れ」的に悪化を続ける。米国では信用不安と実体経済の間で「負の相互作用」(スパイラル的な悪化現象)が起こっており、経済は鋭角的に悪化している。

→ OECD(経済協力開発機構)総合先行指数を見ると、日米欧に加え、BRICs諸国においても、程度の差はあるにせよ、鋭角的な景気悪化が観察されている(1月19日掲載『グローバルデフレ相場』参照)。世界経済のコアであり、実物経済とマネー経済の両面におけるグローバリゼーション進展の中で重みを近年むしろ増すに至った米国経済という、最も大きくて重い「ドミノ」が倒れたことで、世界経済は「ドミノ倒し」状態に陥った。

 米国の個人消費が一回り小さくなることは避けられそうにない。破産法11条を申請して再建を目指していた米国第2位の家電小売りチェーンが16日、再建を断念し清算されることに決まったのは象徴的である。ユーロ圏の景気悪化も顕著で、19日に欧州委員会が発表した経済見通しでは、ユーロ圏の2009年成長率が▲1.9%へと大幅に下方修正された。

(3)日本の事例から考えて、不良債権問題解決には「ディスクロージャーの徹底」が不可欠。また、損失処理は、景気悪化で今後発生してくると見込まれる部分を含め、過剰なほど行うほうがよい。米国の公的資金活用策はこれらの点で不十分で、市場の信頼感は回復しにくい。

米大手金融機関の損失拡大には歯止めがかかっていない。16日には大手証券を買収した米大手銀が追加で公的支援を受けることになり、追加の公的資本注入額は200億ドル。また、総合金融グループを形成してきた米銀最大手に対しても200億ドルを追加注入することになった。

 双方とも、ポールソン米財務長官が大手金融機関トップを集めて説得した上で公的資金を一斉注入した際に250億ドルを受け取っていたが、今回また、それに近い金額が投じられることになった。しかも、実体経済と信用不安(信用収縮)の間で発生している「負の相互作用」から考えて、金融機関のバランスシートは時間の経過とともに悪くなっていると考えられる。

(4)インフレ時代到来説は「虚構」であることが、「原油・穀物バブル」崩壊の結果、明らかになった。前年同月比で日米欧の消費者物価がマイナスに転落することを通じて、世界的な「デフレ」(持続的な物価下落)ないし「デフレスパイラル」(景気後退と物価下落の負の相互作用)懸念が、市場のテーマになりやすい。

 米12月の消費者物価指数は総合ベースで前年同月比+0.1%までプラス幅を縮小してきており、マイナス転落が必至の情勢。原油価格急反落という要因だけでなく、むしろそれ以上に、設備稼働率急低下など景気悪化に由来するデフレ圧力の存在が重要である(1月19日付『グローバルデフレ相場』参照)。