三菱東京UFJ銀行が国債入札のプライマリーディーラーの資格を返上する。その理由とは?(写真はイメージ、出所:Wikimedia Commons)

 日本は1930年代に似てきた──といっても「戦争法で日本が戦争に巻き込まれる」という類の話ではない。安倍首相が消費税の10%への増税を「新しい判断」で再延期し、「GDP600兆円」をめざす大幅な赤字財政を決めたからだ。

 これは30年代の「高橋財政」の運命とよく似ている。高橋是清蔵相は国債の日銀引き受けで赤字財政を可能にし、大恐慌で疲弊していた日本経済を回復させた。しかし軍部は際限なく国債増発を求め、それを拒否した高橋は暗殺された。

メガバンクが国債の買い手から売り手に回った

 今週、1つのニュースが金融村を騒がせた。三菱東京UFJ銀行が国債入札のプライマリーディーラー(PD)の資格を返上するというのだ。PDは財務省との懇談会に参加できるなどの特典がある一方、発行額の4%以上の応札を義務づけられる。

 しかし日銀のマイナス金利で国債の利回りがマイナスになったため、この義務が重荷になったのだという。これ自体は大した事件ではなく、PDを降りても国債は買えるが、メガバンクの最大手が「もう国債を買いたくない」という意思表示をした意味は小さくない。

「日本の国債の90%以上は日本の金融機関が保有しているから大丈夫だ」という向きがあるが、邦銀は愛国心で日本国債を保有しているわけではない。企業の資金需要がないため、やむなく国債で運用しているのだ。その金利がマイナスになっても買うことは、株主に説明がつかない。

 メガバンクは国債保有高を減らし、日本郵政も国債を売って外債を買うようになったが、心配は無用だ。彼らの売る国債を日銀がすべて買えば、政府は国債をいくらでも発行できる。このように中央銀行が国債を引き受けて財政資金を供給することを財政ファイナンスと呼ぶ。

 高橋是清は1932年に蔵相に就任してから、金解禁でデフレに陥った日本経済を建て直すために金輸出を再び禁止し、農村救済事業を行なって歳出を32%増やした。このため国債の発行が増え、それを消化するために日銀に引き受けさせた。