以前このコラムで紹介した自転車修理船もそうだが、セーヌに浮かぶ舟には、実に様々な機能がある。貨物の運搬用にはもちろん、住居、カフェレストラン、パーティー仕様の舟・・・。

セーヌ川に浮かぶ精神病院が登場

セーヌ河に浮かぶ精神病院「ADAMANT(アダモン)」。左の近代的な橋がシャルル・ド・ゴール橋。左奥の塔はリヨン駅の時計塔。左奥の四角い建物は財務省。対岸には、国立図書館とデザインとモードのためのセンターがある

 今回ここにご紹介するのは、リヨン駅とオーステルリッツ駅というパリの2つのターミナル駅を結ぶ橋のたもとに停泊する、なかなか洒落たデザインの舟。「Adamant(アダモン)」という名のついた、河に浮かぶ精神病院である。

 この舟の存在を知るためには、まずパリの精神病院のシステムについて少し触れる必要があるだろう。

 「アダモン」が所属するのは、パリ全20区のうちの1区から4区までをひとくくりとしたセクターで、そこにはまず、セクターの核となる「精神病センター」という機関があり、精神科医やカウンセラーによる診察と治療が行われる。

 入院治療が必要な患者のためにはパリ郊外にそれ専用の病院があり、さらに、救急の事態に備えて24時間体制で対応するセンターが市内中心部に、それと隣接して、長期滞在、あるいは一生住むことも可能な施設もあるという。

 では、「アダモン」はどういう位置づけにあるのかというと、それらのどれとも違う「昼の病院」。

 退院したあとのケアや、入院をするほどの症状ではない患者のために、看護師、運動療法士、作業療法士、音楽療法士などの専門家が常駐し、それぞれ患者の必要にみあった手当てをするという目的のもとに設けられている。

 この施設を利用しているのは、今のところ約120人で、ほぼ毎日のように通ってくる人もいれば、時々来るという人もあるというふうに、患者によって頻度は異なるが、1日平均約40人が「通院」してくるという。

 ところで、一見したところでは、病院というイメージは全くない。それこそ、好奇心旺盛なツーリストならば、ふらりと立ち寄ってお茶でも飲もうかと思ってしまうような雰囲気の舟。

 実際、外から見えるガラス張りのスペースでは、思い思いにお茶を飲んでいる風景が見られるし、さしたる障害もなく河岸から舟へ入れてしまう。