ドネツク市中心部に建つレーニン像(2004年12月、筆者撮影)

 ウクライナ東部ドンバス(ドネツク、ルガンスク州)地域で「ドネツク人民共和国」、「ルガンスク人民共和国」を名乗る勢力が現れてちょうど1年が経過した。

 2014年4月、彼らやロシアのウラジーミル・プーチン大統領の表現を借りれば「ファシスト政権に抵抗した市民」、ウクライナ側の表現では「ロシアの工作員と扇動された集団」が治安機関・行政施設を次々に占拠し、親国家ウクライナから独立した人民共和国の創設を宣言したのだ。

 これに対するウクライナ側のカウンター・テロ作戦(ATO)が発動され、2度の停戦合意を挟み100万人を超える避難民と6000人以上の犠牲者を出しながら、両人民共和国は今日でもドンバスの3分の1程度の領土と300万の住民を維持し続けている。

 言うまでもなく、彼らの存続はロシア政府の支援にかかっている。しかし、ロシア政府に併合はおろか国家承認の意図すら見えない。人民共和国の維持コストの負担を明らかに避けているのだ。

独立に適さないドンバス地域

 かつて、ドンバスは、ウクライナの国内総生産(GDP)の6分の1、貿易輸出の3分の1を叩き出す、ウクライナ経済を牽引する地域であった。その一方で、せっかく稼いだ富は、キエフや西ウクライナに流れている、というのが彼らの反キエフ的言説の根拠となっていた。

 しかし、実際は異なる。

 ドンバス炭鉱は老朽化し、国際競争力を失って久しく、政府の補助金で何とか生き永らえてきた。ロシア炭の2倍近い値段だったドンバス石炭の価格は、政府が半額負担することで、国内で消費されてきたのだ。

 石炭産業への補助金は「エネルギー自給率の向上」として正当化されていたが、中央政界に巣食う強力な石炭ロビーの力も大きく作用した。こうした補助金漬けの石炭と、政府が逆ザヤで安く売る天然ガスを利用した鉄鋼の輸出がドンバス経済を支えていた。

 ウクライナの旧ヴィクトル・ヤヌコヴィッチ政権は、こうしたドンバスの石炭産業と鉄鋼産業を支持基盤としていた。現在の政権は、国際通貨基金(IMF)指導の下でリストラを推進中で、その過程で補助金を切られたドンバスは見かけ上の生産力を失っている。

 もう1つは、年金生活者などの社会保障受給者の多さである。平時においてドンバス人口に占める高齢者の割合は全国平均を上回っており、特にドネツク州は率・数とにもウクライナ随一の高齢化地域であった。

 そのうえ年金の平均支給の平均額はウクライナで最も高い。