本記事は3月20日付フィスコ企業調査レポート(ボルテージ)を転載したものです。
執筆 客員アナリスト 浅川 裕之

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サスペンスアプリ立て直しと海外収益化を図る

 ボルテージ<3639>はモバイルコンテンツの企画・制作・配信を行う企業で、創業して以来、企業理念「アート&ビジネス」に基づき、モバイルにおけるドラマを追求し、ゲームともマンガとも異なるストーリー型エンターテインメントである「ドラマアプリ」というジャンルを確立した。現在では同社が圧倒的な強みを有する「恋愛ドラマアプリ」に加えて、サスペンスや推理をテーマにした「サスペンスアプリ」の提供も開始している。

 収益の中核を成す「恋愛ドラマアプリ」については堅調に推移している。2015年6月期に投入した中でも複数のヒット作が生まれているほか、従来からのタイトルにもロングセラーとなっているものが多い。2015年6月期上期に歴史ものとしてソーシャル型で初めて投入した『天下統一恋の乱 Love Ballad』は、サービスインから日が浅いもののランキング上位に顔を出しており、同社の今後の方向性を占う大きな手掛かりの1つと言えそうだ。

 同社は2015年6月期第2四半期決算において、通期業績見通しを下方修正した。この要因は、同社が新たなジャンルとしてリリースした「サスペンスアプリ」の2つのタイトルが、いずれも不発に終わったためである。同社では、その原因を「マネタイズ、すなわちサスペンスアプリへの潜在需要を収益に結び付けることができなかったこと」にあると分析しており、その対策を施した3作目を2015年6月期末に投入する予定だ。

 来年、2016年6月期については、業績がV字回復となる可能性は十分にあると弊社では考えている。中核の恋愛ドラマアプリは堅調であり、V字回復の成否は、サスペンスアプリの立て直しと海外事業の収益化がカギを握る。同社の経営判断のポイントは売上高を伸ばすためにどれだけの費用を投下するかのバランス取りにあると弊社ではみているが、それは同時に同社の業績予想を難しくさせている要因でもある。しかし逆に言えば、費用のコントロールで利益を出すことが可能であるということでもあり、2015年6月期の水準からさらに業績が大幅に落ち込むようなリスクは小さいと言えよう。結局のところ、来期の最大の注目点はサスペンスアプリのヒットによりトップライン・グロースを実現できるかにかかってくると弊社では考えている。

Check Point

●スマホアプリ化した人気作品はユーザー層が拡大し好調を維持
●サスペンスアプリはコンセプトの見直しで長期継続率、課金率の上昇に期待
●英語市場における恋愛ドラマアプリのポジショニングは良好

事業モデルとコンテンツ戦略

ドラマアプリを日本と英語圏、恋愛とサスペンスの2ジャンルで展開

(1)事業モデルの特徴

 同社の事業モデル自体はシンプルで、スマートフォンや携帯電話等のモバイル端末向けにコンテンツを配信し、その情報料を利用者から得るというものだ。情報料の回収は同社がコンテンツを配信する先となる通信キャリア、SNS事業者等のプラットフォーム運営者が代行してくれるので、同社自身はコンテンツの企画・開発・制作にフォーカスしている。

 同社のコンテンツは、現状は大きなくくりとしての「ドラマアプリ」に特化している。ドラマアプリとはストーリー型コンテンツで、恋愛やサスペンスといった様々なストーリーを、自分を主人公にしながら読み進めるという、ゲームでもマンガでもない新しいスタイルのエンターテインメントだ。同社がドラマアプリに進出した思想的背景としては、「ストーリーエンターテインメント(本、映画等も含まれる)の歴史はメディア技術の進歩とともにあり、スマートフォンというメディアにはそれに最適な形態があるはずだ。マンガや小説、映画等をただ流し込んだようなものではないはずだ」という横田晃洋(よこたあきひろ)代表取締役社長の明快な考えがある。

 同社のドラマアプリは、ジャンルによって大きく2つに分類される。1つは“恋愛”をテーマにした「恋愛ドラマアプリ」で、もう1つはサスペンスをはじめとした“戦い”をテーマにした「サスペンスアプリ」だ。恋愛ドラマアプリは、戦略的に女性ユーザーをターゲットとしたもので、現在の収益の柱となっている。サスペンスアプリは、2013年5月からスタートした新規事業で、男性ユーザーの取り込みを意識しており、将来的に恋愛ドラマアプリと並ぶ収益源となることが期待されているものだ。

 同社はドラマアプリという大きなくくりを堅持し、これを日本国内と英語圏(基本的は米国)での海外展開の2本立てで発展させていく方針だ。ドラマの中のジャンル分けについては、現状は恋愛とサスペンスの2ジャンル体制だ。将来的には新ジャンルの開発に乗り出す可能性もあるが、サスペンスがまだ立ち上げ期にあるため、当面は現状の2ジャンル体制が続くと弊社ではみている。