きれいに使っていただき、ありがとうございます――。飲食店やコンビニのトイレなどに行くとよく目にするこの言葉。この言葉の心理的効果が筆者のクライアントの人材育成に功を奏している。

仕事の成果や人間関係の改善を促す「自己成就的予言」とは何か

イトーヨーカ堂、一足早く新入社員研修

企業でも「褒めて伸ばす」のが最近の傾向(写真は研修中の新入社員)〔AFPBB News

 「褒めて伸ばす」という従業員教育を積極的に取り入れようとする企業が増えている。

 近年の学校教育は、「叱って伸ばす」教育から「褒めて伸ばす」教育へとシフトしているため、叱られた経験があまりないという若手社員が多い。

 叱られた経験があまりない人は、叱られると立ち直れなくなったり、あるいは自己防衛本能が過剰に作用して攻撃的な態度に出たりすることもある。こういった背景もあり、企業の従業員教育も「褒めて伸ばす」方向へと徐々にシフトしている傾向がある。

 この「褒めて伸ばす」をさらに効果的にするために、私は相手の自己認識を改善するという方法をお薦めしている。

 人間はどういう自己認識を持つかによってモチベーションや自信、能力、積極性、結果などが大きく変わってくる。マイナスの自己認識からプラスの自己認識に変わった場合、仕事の成果も人間関係も大きく改善する。

 「自己成就的予言」という社会心理学の言葉がある。

 人間はある状況を定義されることで、その定義が現実化するように行動する傾向があることを意味する言葉である。

 例えば、あなたは優秀な人だと言われ、そういった扱いを受け続けると、言われた本人は優秀な結果を出すようになり、逆にあなたは無能だと言われ、そういった扱いを受け続けると、言われた本人は無能な人間になっていくといった傾向である。

 米国ノースウェスタン大学のリチャード・ミラー博士の研究グループは、シカゴの小学校5年生たちに教室内を整理整頓させ、ゴミを散らかさないように説得するための実験を試みた。

 あるクラスの子供たちには、ゴミを散らかすことがいかに悪いことかを説明し、教室をきれいにしていてほしいと先生から話し、用務員からもお願いした。

 一方、別のクラスではこのクラスの生徒が学校で一番整理整頓ができており、最もきれい好きな生徒たちだと先生が話し、用務員もこのクラスが学校で一番きれいだと話すようにした。

 その結果、前者のクラスではゴミの状況はいっこうに改善されなかったが、後者のクラスでは生徒たちがゴミを散らかす割合が激減した。