自動車業界をはじめ、各業界のメーカーが在庫調整のために生産を減らしています。派遣社員を大量に解雇する会社もあり、マスコミで連日報道されています。
また、会社によっては、在庫を減らすために正月休みを延長したという報道も耳にします。「昨年(特に前半)は休日出勤が続くほど忙しかったので、正月だけはゆっくり休んで疲れを取りたい」というのなら、話は分かります。
しかし、そういう事情ではなく工場を休止するのは問題です。そこには本流トヨタ方式(本来のトヨタ方式)から見た危険な落とし穴があるのです。本当に工場を操業休止にするしか手はないのでしょうか。
生産を休止するとどうなるのか
分かりやすいように、生産工程を新幹線の運行になぞらえてみましょう。
生産品目はN(のぞみ)、H(ひかり)、K(こだま)の3種類です。16両編成の長さをロットサイズ16個と見立てます。
それぞれの1時間当たりの運行回数(つまり、生産個数)は、N(のぞみ)が6回、H(ひかり)が2回、K(こだま)は2回が標準です。1日に16時間稼働したとすると、Nが約1500個、Hが500個、Kが500個となり、合計で約2500個の生産となります。
ところが市場が一変し、1日当たり、半分の1250個しか売れなくなりました。この時、どういう生産体制にすれば良いかを考えてみましょう。
現場として一番楽なのは、今まで通りの体制で1週間作り(運行し)、次の1週間を休むという方法です。米国の自動車会社、いわゆるビッグ3は、在庫調整のために工場単位で数カ月間休んでいました。「先任権付きレイオフ制度」と呼ばれるモノで、労働者は休止期間中にある程度の手当をもらい、休止が終われば優先的に再雇用されます。合理的な方法として米国では容認されてきたと聞きます。
新幹線ならば1日おきに運転するという方法がこれに当たります。しかし、この方法には次のような問題があります。
(1)完成品在庫を考えると、1日分の生産個数である最大1250個もの在庫を余分に抱えることになります。
(2)工程内在庫は、2500個生産時と同じ量が必要です。新幹線が1日おきに運転する時でも、毎日運転する場合と同じ数の車両が必要になるからです。
(3)製造原価の大半を占める購入品はどうでしょうか。部品メーカーは、納入先と同じような在庫増に陥ります。複数の納入先を持つ部品メーカーにとっては、ある会社だけが稼働日を減らすというのはとても迷惑な話です。結局、毎日生産して在庫を溜め、その中から間欠的に部品を納入することになり、在庫を大幅に増やさざるを得ません。
(4)一方で売り上げだけが半分になるので、完成品メーカーだけではなく部品メーカーも資金繰りが大変なことになります。
(5)顧客から見れば、1日余分に待たされることにもなり、代替手段を取らざるを得なくなります。ますます客を減らしてしまいます。
(6)この体制は社内に何の障害も与えずに回ります。それゆえ今のやり方を変えるニーズが生まれず、改革どころか改善も進みません。ただ売れるようになるのをじっと待つだけです。マネジメント不在の対応と言われても仕方がありません。