この原稿は、9月27日から28日にワシントンで執筆した。あえて日付を書く理由は、現在の米国が直面する金融危機への対処として、政府が7000億ドルを準備して金融機関の不良資産を買い取る金融安定化法案の是非を巡り、ブッシュ政権と議会が合意に至らず、議論が続けられている最中だからだ。白熱している大統領選への共和・民主両党の思惑も重なり、政治と金融が絡み合う複雑なゲームの様相を呈している。
26日夜にミシシッピ州でオバマ候補とマケイン候補の最初のテレビ討論会が開かる直前、マケイン候補が延期を提案し、一時は開催が危ぶまれる前代未聞の事態となった。24日午後2時過ぎ、マケイン(以下敬称略)はライバルのオバマに対し、深刻な金融危機に対処するため、選挙戦を一時休止して超党派の合意をつくり、26日夜の討論会を延期しようと持ち掛けた。しかし、その提案は相当な政治的な思惑が透けて見えたため、オバマは乗らなかった。
経済問題が苦手なことや、基本的に規制緩和の立場をとるマケインは、金融危機が深刻化してから、オバマに比べてうまく事態に対応できない。9月上旬の共和党大会直後には、オバマを上回っていた支持率が下がり、現在は10ポイントほど負けている。
ここで一時休戦できれば、相手の勢いを止め、自らの態勢を立て直すきっかけとなる。しかも26日の討論を延期した場合、1週間後に予定されている副大統領候補の討論会も延期、あるいはキャンセルになる可能性が高い。そうなれば、国際問題や金融・経済問題に明るくないペイリン副大統領候補に勉強と戦略立案の時間を与えられ、マケイン陣営の懸念の1つを取り除くことができる。
だからこそ、オバマはマケイン提案を拒否した。これが24日午後5時近くの出来事。夜9時、ブッシュ大統領が7000億ドル救済資金への賛同を得るため、議会指導者と25日に議論する席に両候補の同席を求め、オバマも参加せざるを得なくなった。ただし、25日のワシントンでの会議に出席しても、翌26日夜の討論会は予定通り行う方針で参加した。
25日の会議では7000億ドル救済策に対して、共和党下院の保守派が強く反対して合意に至らなかった。結局、マケインもミシシッピ州に飛び、26日の討論会は無事開催された。
この会議に参加した民主党の議員からは、「マケインが来るまではほぼ合意に至っていたが、彼が来てから合意できなくなった」という批判まで飛び出した。この批判はマケインの微妙な政治的立場を反映している。現在のところ、マケインも含む共和党の財政タカ派、特に下院議員が公的資金投入に強く反対し、民主党議会が共和党のブッシュ政権の法案を支持する「ねじれ構造」となっている。
なぜ共和党がブッシュ政策に反対?
そもそも、なぜ共和党が共和党政権の方針に反対するのか。
日本の1995年12月の当時の「住専」への政府の公的資金を巡り野党「新進党」が猛反対した経緯を思い出していただきたい。当時、いわゆる「住専」と呼ばれた住宅金融専門会社の経営失敗に税金を投入すれば、「モラルハザードを引き起こす」という反対の声が国民に強く、それを野党が代表した。今回も事情は同じで、そもそも自己責任であるはずの民間金融機関を救済するために税金を使う政策に、米国民の多くが納得していない。しかし、金融機関破綻の連鎖が続けば、金融システム全体が崩壊するほどのリスクがあるというのも、当時の日本と状況は一緒だ。