面白い本を読んだ。一言でいうなら、“不況下で緊縮経済を敷くと、国民の健康に何が起こるか?”がテーマだ。「不況下で緊縮財政」という事態は、ギリシャで現在進行形で起こっていることでもある。
この本の著者、デヴィッド・スタックラーとサンジェイ・バス(前者は公衆衛生学と政治社会学、後者は医学の学者)は、経済危機と国民の健康状態との関係に興味を持った。そして、過去の厖大なデータや報告書を分析した結果、経済政策はどんな薬よりも、手術よりも、個々の医療保険よりも、国民の健康に影響を与えるという結論に達した。
不況下で国民が健康になった国、死者が増えた国
同著は、それらの論文を一般の人にも分かるように書き下ろしたものだ。しかし、素人向きとはいえ、中身は十分科学的で、しかもショッキングで、これを読むと、ギリシャの人々が過酷な緊縮財政に抗議して立ち上がった理由もよく分かる。
一般的には、不況はうつ病や、自殺や、アルコール依存や、感染症などを引き起こすと考えられている。しかし実際には、ひどい不況でも、国民の健康状態や死亡数に変化のない国もある。
それどころか、そういう国では、お金がないのでお酒や煙草が買えないことが幸いして、アルコールやニコチン由来の疾患が減ったり、あるいは、車を売って歩くようになったため、国民がより健康になったりということさえ起こっている。
この差は、ひとえに経済政策の違いからくるという。国民の健康状態の良し悪しには、いろいろな要素が関わっているが、この2人の学者が発見した確かなことが一つある。それは、経済危機にも関わらず、国民の健康状態が悪化せず、自殺も増えなかった国というのは、福祉厚生という貧者へのセーフティーネットを死守した国なのだ。
その反対に、厳しい緊縮財政を敷いて、銀行は救うが、貧者へのセーフティーネットは取り払うという政治的選択をした国では、ただでさえ不況でダメージを受けている国民は大変悲惨な目に合う。
経済政策と国民の生死は、私たちが思っているよりもずっと密接にかかわっているらしい。