マット安川 ゲストに軍事アナリスト・小川和久さんを迎え、日本の危機管理体制と「今そこにある危機」についてお伺いしました。

アメリカとの同盟関係を選ぶなら集団的自衛権は前提条件

小川 和久(おがわ・かずひさ)氏
1945年熊本県生まれ。陸上自衛隊生徒教育隊・航空学校修了。同志社大学神学部中退。地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立、現在は国際変動研究所理事長のほか、静岡県立大学特任教授。外交・安全保障・危機管理(防災、テロ対策、重要インフラ防護など)の分野で政府の政策立案に関わり、国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、日本紛争予防センター理事、総務省消防庁消防審議会委員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。著書多数。(撮影:前田せいめい、以下同)

小川 集団的自衛権の問題で気になるのは、そもそも何のために集団的自衛権を議論するのかという肝心なところを整理しないまま、いきなり賛成か反対かを問う傾向があることです。

 日本が国を、国民を守るために取るべき選択肢は2つしかありません。ひとつはどの国とも組まないことです。これを選ぶなら集団的自衛権などという言葉は使う必要がなくなります。

 しかし非武装中立は考えられないので、今のレベルの安全を維持できるように軍事力を備えないといけない。防衛大学校の2人の教授が3年前に試算したところによると、そのためには23兆円ほどかかるそうです。

 もうひとつの選択肢はアメリカとの同盟関係をとことん活用することです。これなら4兆7000億円の防衛費プラスアルファで世界最高レベルの安全性を保つことができます。こんなに費用対効果に優れた選択肢はありません。

 同盟関係を維持する場合、集団的自衛権は前提条件となります。同盟関係において相互防衛は当たり前のことです。そこをちゃんと押さえないといけません。

 もうひとつ見落とされているのは、集団的自衛権にはある国の軍事的突出にブレーキをかける役割があることです。

 例えば西ドイツは1955年、再軍備こそ認められましたが、自分の国の安全のために自分の国の軍隊を使う権利、すなわち個別的自衛権の行使は認められませんでした。その代わりNATO(北大西洋条約機構)に加盟して、集団的自衛権によってその安全を保つということになった。

 ドイツはいまだに単独で個別的自衛権を行使できないのですが、これによりドイツの軍事的突出に歯止めがかかっているのです。

安倍氏は戦後初めてリーダーシップを発揮した総理

 日本は戦後69年間、安全保障の面でアメリカにもたれかかってきました。同盟関係を選ぶにしても、独立国家として自国の安全を保つ枠組みを作らないといけないのに、それすら作ってこなかった。歴代総理の中にはやろうとした人もいるのでしょうが、世論を気にしてできませんでした。

 しかし安倍(晋三、総理)さんは安定政権を確立したこともあって、どんと枠組みを作りました。戦後初めてリーダーシップを発揮した総理大臣と言えます。これを拙速と言う人がいますが、多くの日本人は拙速という言葉を誤解しているのです。