政府の2015年度財政投融資計画(財投)によると、海外通信・放送基盤整備等事業支援機構(仮称)が新設され、官民ファンドは合計12になる。このうち10が第2次安倍内閣でできたものだ。かつて小泉内閣で「民にできることは民にやらせる」という理念で民営化・廃止された国営金融機関が、官民ファンドと名前を変えたのだ。
その総額は14兆円。一般会計が厳しくなったため、こうした特別会計で「裏の国家予算」が増殖している。財投は小泉純一郎首相の郵政民営化の原点だったが、財政赤字がふくらむ中で、塩川正十郎元財務相が言ったように「母屋(一般会計)でおかゆを食っているのに、離れ(特別会計)で子どもがすき焼きを食っている」状態が続いている。
官民ファンドはなぜ失敗するのか
官民ファンドは株式会社に政府が出資する方式になっており、無責任体制になりやすい。主なファンドとして、次のようなものが挙げられる(金額は最大資金量)。
・産業革新機構(経済産業省) 2兆円
・地域経済活性化支援機構(内閣府) 1兆2000億円
・中小企業基盤整備機構(経済産業省) 5191億円
・官民連携インフラファンド(内閣府) 3640億円
・競争力強化ファンド(財務省) 3150億円
・官民イノベーションプログラム(文部科学省) 1000億円
・海外交通・都市開発事業支援機構(国土交通省) 1000億円
・クール・ジャパン機構(経済産業省) 600億円
私が経済産業研究所に勤務していたころ、当時の次長が産業再生機構に出向したが、結果的には再生機構はカネボウやダイエーなどを再建し、2007年に解散したときは700億円以上の利益を出した。そのCOO(最高執行責任者)を務めた冨山和彦氏は、再生機構が成功した理由を「公益性を考えなかったからだ」と逆説的に表現している。
「このプロジェクトは採算が取れないが社会的に役に立つ」と考えて投資すると、株式会社としては損失を出すことが多いので、プロジェクトの選択は公益性を踏まえるが、投資は採算性しか考えなかったという。
公益性を考えると赤字を出しても清算が遅れ、結果的には納税者の負担が大きくなる。そればかりでなく官民ファンドは、ただでさえ少ない投資機会を役所が奪うクラウディングアウト(締め出し)で、日本経済を窒息させている。
最悪の官民ファンドが、東京電力の「親会社」になった原子力損害賠償・廃炉等支援機構である。その含み損は10兆円を超え、どこまで増えるか分からない。事実上つぶれた企業を役所が「脳死状態」のまま延命していることが、日本経済のダメになる原因だ。